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side瑞綺
あれから日が過ぎ、土曜日がきた。
愁から初めての連絡が来たのは昨日の夜。
「明日、19時に迎えに行く」
それだけ言い切られた電話。
そんなメールみたいな電話だったけれど、久々に声を聞いて少しだけ胸が高鳴る。
気を紛らわすために勉強に励んだせいで、若干寝不足気味に。
そわそわして過ごしていたら、あっという間に日が沈みはじめた。
お母さんは仕事らしく、何か勘繰られることは無さそうだ。
さて。何着て行こう。
クローゼットを開くと、黒のスウェット上下セット…と、莉紗やお母さんと買い物をした時に、選んでもらったおしゃれな服が数着。
こういう時の服さえも悩む時間すら初めてで。
やっぱり無難に黒だな。
服を着替え髪をパパッと整えて、あまり頭に入ってこない参考書に目を通しながら迎えの時間を待つ。
ーブーッブーッ
『!……はい』
「降りてこい」
きた…!
バタバタと靴を履き、玄関の鍵を閉め、エントランスを出る。
黒塗りの車が停車しているのが目に入り、急いで向かう。
『お、またせしました』
後部座席のドアを開け、乗り込みそう言うと、あぁ、とだけ返事がきて車が走り出す。
沈黙が続き、居心地が悪くなってきて窓にもたれかかる私に、
「腹、減ってるか」
yesしか答えが無い質問が愁から飛んできた。
『減ってる』
外を見ながら当たり前にそう答える私に、そうか、と愁が呟きまた沈黙に戻った。
なんか……お腹空かなくなってきたかも。
空気の重さに空腹が遠のいていくのを感じる。
そういえば…
『はっ、春都さんは?』
「あ?」
春都さんがいてくれたらな、と、ふと思い聞いてみれば低い声が返される。
『あ、いや。…いつも一緒なのかと』
「仕事だ」
『…忙しいんだな』
「……あぁ」
なんだか前より低くなっている声色に、恐怖を感じざるを得ない。
まず着いたのは松山さんのところだった。
完全に傷口が閉じているのが確認されて、すぐに診療が終わる。
「嬢ちゃん、愁のこと……よろしくな。悪い奴じゃ無いんだ。光が無いだけで」
部屋を出ようとした私に意味深な声がかかる。
お辞儀をし部屋を出ると、壁に寄りかかり下を向く愁の姿。
『お待たせ、終わった』
「ああ。肉行こうぜ」
それから何分経っただろうか。
車のエンジンが切られた音がして、到着したのだと気付く。
「着いたぞ、降りろ」
愁の声が聞こえ車から降りると、目の前には見たことの無い高級感のある焼肉屋の文字。
「入るぞ、はぐれるなよ」
『…はい』
車内の緊張感が続き敬語になってしまう私の前をスタスタと歩き店に入り、店員らしき人に何かを言う。
店員さんは深々と頭を下げ、こちらへ、と手を伸ばした。
戸が何個かある廊下を進み1つの扉が開いた。
「どうぞ」
店員さんが部屋の中へ促す。
中に入ると6人用くらいの個室。
「瑞稀、上着よこせ」
どこに座ったらいいか分からず立ち尽くす私に、愁の声がかかり言われた通り着ていた上着を渡す。
「黒崎様、私が」
「あぁ」
店員さんに私の上着を渡し、先に席に着く愁。
上着を丁寧にクロークにしまってくれた店員さんにペコっとお辞儀をし、向かい側の席にささっと座る。
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