3
side愁
「…仲、良さそうだな」
忙しい中、たまの見張りで瑞綺の姿を見れる日だったというのに。
茶髪の男と楽しそうな姿の彼女を睨む俺に、春都が言う。
「まあ、普通の女子高校生だ。そりゃそうだよな」
「…はぁ」
停車中の車のドアにもたれかかりタバコを吹かす俺の隣に来た春都は、無表情で同じ体制になる。
「まあ、俺は愁がいつもより仕事を早くこなしてくれてるから、なんでもいいんだけど」
瑞綺が入って行った建物を見つめる俺に、春都が言う。
ーーー嫉妬。
こればかりは、認めざるを得ない。
どうしようもない苛立ちに、選択肢を間違えた言葉を吐く。
「女を用意しろ」
「……え?」
「だから、女を呼べ、抱く」
「い、いいの?」
「ああ。なんだ、お前がこの苛立ちを受け止めてくれるのか?」
「っっ…わかった」
少し目を泳がせ、呆れた顔をした春都は運転席に戻る。
俺が今どう言う顔をしているかなんてわからない。
無性に苛立つ気分を誰かにぶつけたくて女を用意させた。
情けねえな。
こんなことでしか鎮められないなんて。
早く言えたらいいのに。
ーーー好きだ、と。
答えてくれるだろうか。
望む言葉で。
らしくも無く、最悪な状況を想像してまた苛立ち始める。
「…っや、ん…しゅ、っう」
ギシギシと鳴るベッド。
響く女の声。
「っっはぁ……黙れ」
「ちょっ…と…激し…」
目の前にいる乱れる女の顔は、俺の目の中には入らない。
こんな行動をしていることを知ったら彼女はどんな顔をするのだろうか。
ちらりと脳内にいる瑞綺の顔は、ミラー越しに目が合った時の表情。
…だがすぐに、今日見た茶髪の男を見るあの笑顔に変わり、苛立ちに変わる。
「………っ」
「やっ…あっ!」
動きを強めた俺に、快感と苦痛が入り混じった声を出す女。
そんな声が今の俺の耳に入ってくるはずもなく、ひとりごとのように消えていく。
「はぁ……」
事が終わりすぐに部屋を出て、下の階を目指す。
とある部屋に入り、こんな汗残すまいとシャワーを浴びる。
バスローブを巻き浴室のある部屋を出ると、呆れ顔の春都がソファに座っていた。
「店に降りてくるなら言えよ。しかもそんな格好で。いつもならすぐ帰るくせに」
今いるのは、春都がオーナーを務める"bar Black swan"。
「そんなんで土曜会えるの?」
「…うるせぇ」
はぁ、と溜め息をついた春都は続ける。
「だから言ったんだ、辞めておけと。なに一般人に振り回されてんだ。らしくないことせず、この世界の檻ですごせばいいだろ」
淡々と言う春都に、舌打ちしか返せない俺はカウンター席のハイチェアに腰を落としタバコに手を伸ばす。
…わかっていた。
巻き込んでいる。そしてこれからも巻き込んでしまう。
俺がいる世界は闇だ。
日常を失いたくないと言った彼女を、引っ張り込もうとしているのは紛れもなく…闇。
「想像以上に、瑞綺ちゃんにお前が惚れてるのもわかっている。ただ、守ると良い約束したのは俺らだ。そこまでにしておけ。…とまあ普通の部下ならこう言うよな」
ハハっと笑いながらカウンターに移動し酒を注ぐ。
「応援するよ」
「あ?」
酒を俺の前に差し出し、予想外の言葉を口にする。
「見たことのない愁のその顔を引き出した彼女は、お前を変えてくれる。根拠は特にないけど、彼女は俺らに無い……強い光を持ってるよ」
珍しい。
春都が女をそういう風に言うなんて。
「…。…あぁ」
酒をグッと喉に流し込み、席を立つ。
「土曜、健闘を祈るよ」
先ほどの真剣な顔からニヤけ顔に変えた春都に、ふっと口角をあげ別室に行き、ベッドに横たわる。
スッと目を閉じれば、出会った時の光景。
ーーーもしも嫌われたら。
初めての感情に心臓の鼓動を早め、眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます