9
しばらく経つと、隣から静かな寝息が聞こえてくる。
安心、できているのか。
「春都、本格的に護衛体制に入るぞ」
前に座る2人が会話しているところに、割り込む。
「あ、ああ。やっぱりそうなるよね。でも瑞綺ちゃんの意見もちゃんと聞かないと…。逆に離れていっちゃうよ?」
「離さねえよ」
「はいはい。それは私情でしょ。大事なのは瑞綺ちゃんの気持ちだ」
「ちっ。…着いたら客室に行け。説明はお前から頼む」
「承知致しましたよ、若」
ニヤつきながら言う春都に、もう一度舌打ちをする。
客室に着き、ソファに座った瑞綺に今までの経緯を話す。
そしてこれからのことを。
「瑞綺ちゃんには、俺らに守られてもらう」
『……は?』
「東郷のやつ手荒でね。今回なんて生温い方だ。次は誰か殺されるかもしれない」
春都のストレートな言葉に、俺は瑞綺を見つめる。
今回はラッキーだった。
恐らく睡眠剤のついたハンカチを口に当てられたのだろう。それと手錠。
…東郷がしたのはそれだけだった。
やつらの行動からしたら、運が良かったとしか思えない。
「東郷はいずれ落ちる。それまでは俺らに囲まれておけ」
少し頭を冷やしたくてタバコに火をつける。
…が、目の前の彼女の眉間に皺がよったのが見えた。
嫌いって言ってたか…。
はぁ…。
俺は立ち上がり、窓に近づき外を見ながら息を吸う。
『私、12月に受験があるんです。なにかあったら困るので、守ってくれるのは凄くありがたい』
そう言った瑞綺に、少しホッとする自分がいる。
受験……俺は経験が無い。でもいつだったか、嵐が必死こいて勉強していたのは見ていたから大変さはなんとなくわかる。
春都の言葉の後に、先ほどより凛とした声が返る。
『ただ。プライベートには極力入ってこないでほしい、です』
「プライベート?」
『普通の高校生なので。友達と遊んで、デートして習い事して、勉強して、家に帰ってお母さんが作るご飯を食べる。日常は失いたく無い』
……。
デートだ?
おいおい、男がいたのか。
自然とタバコを吸う息が深くなる。
春都が何か勘付いたのか、どもりながら言葉を発した後、
「そうしたいのは山々なんだけど…うちの頭がねえ……瑞綺ちゃんのこと、気に入っちゃったみたいでねえ」
「…そうなんか!?若!?」
……完全に俺をおちょくることを言いやがった。
今まで黙って聞いていた逢沢が、それに反応する。
「ちっ。余計なことベラベラ喋ってんじゃねえ。話が終わったんなら家まで送ってやれ」
あまり表情を変えない瑞綺になんとも言えない感情になり、ソファにどかっと座り、力任せに火を消す。
その後、春都と逢沢は何かに遠慮するようにわざとらしい言葉を言い残し、俺と瑞綺を2人にした。
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