8
side愁
月に数回、本家での会議中。
ーブーッブーッ
春都の携帯が鳴る
「失礼します」
襖を閉め部屋の外で話す春都。
「珍しいな。会議中は連絡入らないのに」
「春都が出るってことは急用かもな」
幹部たちが騒ついていると、早々に電話を終えたのか、眉を顰めて戻ってきた春都は俺に近づき耳打ちした。
「瑞綺ちゃんを見失ったって」
!?
俺は少しの動揺で目が開く。
「悪い、続きは明日だ。逢沢、車を用意しろ」
「へい」
「愁、俺らは」
「先にビル行って前に残した仕事片しておけ。春都、着いて来い」
幹部たちに指示を出し、春都を連れて外へ急ぐ。
思っていたよりも、ことが起きるのが早かった。
たぶん東郷のやつらだろう。
会議の内容から瑞綺のことに考えることを一転させ、車に乗り込む。
「どこへ向かいやすか」
「とりあえず倉庫だ。あそこは高校からまだ近い」
「へい」
俺の隣に乗った春都の指示で、車が動く。
ーブーブーブー
「はい」
非通知からの電話にすかさず画面を触る。
「よお。黒崎」
「……東郷」
「前は俺らの下っ端が世話になったなあ」
「そっちが先だろ」
「弱ってた嵐くんなら、いけると思ってたんだけどなあ?」
「ちっ」
「落ち着けって、黒崎の若さんよお。……春妃瑞綺。また綺麗な高校生と関わったもんだなあ」
出た。やはり。
「まあ、どうするかはこれからゆっくり決めようか。…別宅だ。来い」
ーブツッ
「逢沢、東郷の別宅だ。急げ」
「!!へい」
ハンドルを切り方向を変えた車がスピードを上げる。
はぁ…無事でいてくれ。
着いた先の東郷の別宅には門に1人男が立っていた。
すぐに車から降り口を開く。
「黒崎だ。入れろ」
「お待ちしておりました。奥の部屋でお待ちです」
「ちっ」
「俺は待つね」
春都の言葉に、背を向けながら軽く手を挙げ、奥の部屋へ足速に向かう。
前を歩く下っ端らしき男が、ある部屋へ入り出てきた。
「この中に。…ど、どうぞ」
力任せに開けたドアの先には、背を向けた瑞綺とこちらを見る……
「……東郷」
それから、あっさり瑞綺を返すと言い手を振る東郷。
何を考えてやがる。
少しの苛立ちを隠せず、速くなる足に瑞綺の上擦った声がかかる。
『ちょっっと!っっ…もっとゆっくり歩けよ!』
無意識に出た舌打ちと裏腹に、スピードを落とす。
それから車に乗り、住むマンションへ向かわせる。
ふと隣を見ると制服姿の瑞綺。
セーラー服に紺のニット。
今日はマスクを着けていないせいか、初めて見た時よりも幼く、年相応に見える。
何回か見張りで見たことはあった。
が、近くで見ると、先ほどのイライラが嘘のように落ち着いてくる。
視線を下にずらすと見えた、手首に痛々しい手錠の跡。
病室に入った時と同じ感情が湧き上がるのを感じ、そっと手を近づけ撫でる。
強さの中の弱さ。
俺らのせいで傷が増えた彼女の身体。
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