5


「…ぃ。おい、起きろ」


うお、寝てたのか。

数分前の優しい空気は消え、低い声が私に向けられる。


…夢だったかもしれない。

先ほどの男はなんだったんだ。

目をごしごし擦ってみたが、手首をさすってくれていた人物と同じ人間が、私に鋭い目を向けている状況は変わらない。


「着いたぞ、降りろ」

『え?…どこだここ』


言われた通り車から降りると、私の住むマンションとは違うもっと大きな建物。


「来い」


春都さんと運転手さんはすでに、中へ消えて行き、私の目の前の背中もどんどん小さくなっていく。


慌てて走り追いかける。


訳がわからず、着いて行った先は事務的な部屋の中。


「ごめんね強引に連れて来ちゃって。座って」


春都さんが長いソファに私を促す。

言う通りに座ると、向かい側には偉そうな愁の姿。

その隣に先ほどの運転手さん。

私の隣に春都さんが座ると、これまでの経緯を話し始めた。


先日の喧嘩の仲裁をした私が、東郷から目を付けられていたこと。

狙われると踏んで、黒崎の幹部たちが私を陰で見張っていたこと。

攫われた今日、私を見失ったと、会議中だった愁たちに連絡がきたこと。

要が自ら連絡をしてきたこと。


『私…守られてたのか』

「巻き込んだのは俺らだからね、当然のことだよ」

『あ、イジメられてた人は…』

「すぐ病院へ行ったから問題無し。今はリハビリしながら普通に生活してるよ。そういえばお礼を言いたいって「失礼します!」


ーバタン


「嵐、ノックぐらいしろ」

「すんません、愁さん。春都さん、逢沢さん、お疲れ様です」


ザ好青年って感じの男が入ってくるなり、頭を下げた。


運転手さんは逢沢さんというらしい。


「急にすみません。女の子連れてるのを見かけて、どうしてもお礼を言いたくて」

「ちょうどよかった。瑞綺ちゃん、助けたこの子が嵐」

「この度は本当にありがとうございました!!」


これでもかってくらい頭を下げながら、でかい声で言う嵐。


『い、いえ。無事でなりより、です』


勢いにおされ、出てきた言葉を並べる私。


「もういいだろ。嵐、下がれ」

「失礼しました!」


低い声にでかい声が続き、嵐が扉を閉める。


「元気な子でね。ああ見えても力はあるんだ」

『は、はぁ』


元気すぎだろ。いくつだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る