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「行くぞ、瑞綺」


変わらない低い声で私の腕を引っ張る。


『ちょ、私、の鞄はっ』

「どーぞ」


ズンと引っ張られる腕に、なんとか振り返りながら忘れ物を言うと、要がニヤリと渡してくる。


『あ、ありが「早くここから出るぞ」


お礼を言いかけた私に、苛立つ声が聞こえ引っ張る力が強くなる。


「またね、瑞綺ちゃん」


「…次は本当の人質として会おうか」


ーバタンッ


呑気にまたね、という要の声を最後にドアが閉められ、前を歩く愁を必死に追いかける。



ーーー二言目はひとり残った部屋で呟かれたので、その意味は誰も知らない。



『ちょっっと!っっ…もっとゆっくり歩けよ!』


部屋から出てなっっがい和風の廊下を歩く私たち。


「ちっ」


舌打ちとともにほんの少しだけスピードが弱まる。前とは違い和服を纏った愁の大きな背中に、舌打ちをされたはずなのに、またドキリと心臓が跳ねる。


でかい玄関であろう場所で足がやっと止まる。


「愁、早かったな」

『!春都、さん』


大きい背中から覗くと、これまた和服の春都さん。


「瑞綺ちゃん、無事で良かった」

「帰るぞ」


笑顔を私に向け、靴を並べてくれる。

私たちは外へ出て、門をくぐり車に乗る。


『あの家、東郷要が1人で住んでるのか?』


車が発進すると同時に、疑問だったことを口にする。


「…はぁ?」

「瑞綺ちゃん…乗って一言目が、それ?ほんっと鋼の心だね」


隣に座る呆れ顔の愁と、今日は助手席に座っている春都から同時に言葉が飛ぶ。


『あ、あぁ、いや、その、…来てくれてありがとうゴザイマス』

「お礼なんて、そんなそんな!頭下げないで!俺らが謝らないといけないことだから。ね?愁。何かあると思ってはいたけど防げなかった。瑞綺ちゃん、怖い思いさせちゃってごめんね」


言えていなかったお礼を早口で言う私に、振り返りながら春都さんが言う。


「おまえ、腕」

『…ん?』


不意に私の腕をとった愁。


「痛くないのか?これ」


言っているのはたぶん、手錠の跡。

手首に残る痛々しい赤い跡。

外せないかと、かなりガチャガチャやってしまったからだろう。


『ああ、忘れてた。こんなに赤くなってたのか』


ここまで初めての経験過ぎて、手首の跡なんて気にもできなかった。


『!?』


愁が赤くなった手首をさする状況に、あからさまにビクッとなってしまった。


「悪い、痛かったか」


今までとは違う、少し優しい声がこちらに向いている。目も心なしか鋭くない。


『あ、いや、びっくりしただけで、そんなに痛くはっっな、い…』

「肩は、治ってきたか?」

『とりあえず、は。触ると痛いくらい…かな』

「そうか」


優しい声に、変な緊張で声が震える。

そうか、と言った愁の目は外を向く。

片手は私の手首をさすったまま。


運転席の人と春都の会話なんて耳に入ってくるわけもなく、後部座席の静かで優しい空気に目を瞑った。

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