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俺らが住むマンションに帰るまで、車内は瑞綺の話で持ちきりだった。

…といっても、春都がただひたすら喋っているだけだ。

1人で盛り上がっている声が急に低くなり、俺に向けられる。


「狙われるよね、…奴らに」

「…あぁ。時間の問題だな。明日、瑞綺のことを調べてくれ」

「わかった。奴らはたぶん東郷のとこの下っ端だろう。最近、よくない噂が耳に入ってきてたからな。3人の処分は下に頼んでおいた」

「汚ねぇな、タチが悪い。……東郷、か」


ドラッグにレイプ、銃刀法違反。汚い組合、東郷。

正反対の俺らは、衝突しやすい。


瑞綺がどう狙われるか。

奴らの目と刃が、勘違いで運良く俺らに向かってこればいいが。


そんな呑気な期待は、数週間後すぐに打ち砕かれることになる。




"春妃瑞綺。青南高校3年。家族構成は、母、兄。ジークンドークラブに週2で通っている。関東大会空手の部3連覇"

簡単な詮索で出た情報がこれ。


「はる、ひ」

「珍しい苗字だね」


朝から俺の部屋で、ソファに腰掛けコーヒーを飲みながら書類に目を通す春都。


聞いたことがある苗字だ。それがなにかは思い出せないが。

父親の情報は何も出てこない。ただの離婚だろうか。母親はごく普通の会社員、兄は海外勤務。


「青南高校ってここから結構近いね、どうする?見張る?」

「あぁ。怪しまれないようにな。彼女はなにか鋭そうだ」

「かの、じょ?……ふはっ」


俺の言葉に春都がコーヒーを吹き出す。

…なんだよ。


「彼女だって!愁が女のことを彼女って、ふはっはっ…話のネタがまた増えた!」


ニヤニヤ盛り上がる春都。

俺は無視して書類を見る。


「…もしかして本当に惚れた?歳下は面倒とか言って歳上しか抱かない愁が?辞めときなよ、瑞綺ちゃんは高校生だ」

「黙れ」


俺はタバコに火をつけ、ゆっくり息を吸う。


「俺は嵐を守ってくれたから、瑞綺ちゃんを守るけど…愁は違うみたいだな」

「ニヤニヤすんな気持ち悪い」

「俺は辞めとけって言ったからな?」

「……仕事の時間だ、片せ。準備しろ」

「いつもは俺が言う台詞なんだよそれ」


火を消し立ち上がって自室に入って行く俺に、ブツブツ文句が聞こえる。



「惚れた…ねぇ」


歳下の女には良い経験が無い。

けれど…彼女、瑞綺にはなにか特別なものを感じて、目が合った瞬間心臓が跳ねたのは間違いない。


「情けねぇ」


この歳になって、女のことを悶々と考える日がくるなんて。


「愁ーーー!早くしろーー!」


リビングからでかい声が飛んでくる。

俺はコートを羽織り、その声のする方へ向かった。




ーーー出会いなんて、正直望めばどこにでもある。でも、これが俺の心を埋め尽くす存在になるなんて。

だとしたら、こういう出会いでも……大歓迎だ。

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