9

side愁


『あんたの目綺麗だな』


そう言ってマンションに消えていく女。


「しゅ、愁」

「…なんだ」

「…惚れた」

「っあ?」

「綺麗な子だったね」

「お前惚れたって「愁もでしょ?」




ーーー正直、惚れたどころでは無いかもしれない。




数時間前。

嵐がいないと連絡を受け、下っ端を掻き集めて情報を集めた。

有力な候補の1つに、ある繁華街の裏にある倉庫。

俺らはそこに向かった。

昨日から体調が悪いと言っていた嵐。

…死ぬなよ。


緊張感のある車内で拳を握り締める。


倉庫に着いて目にしたのは、倒れている…男4人。

…と、隅の壁に座っている人間。


春都が外に飛び出し、嵐を起こす。

嵐の表情が少し動いたのを見て、俺はやっとタバコに火を付ける。

しばらくして、もう1台の車が停車し嵐が乗せられ去って行く。

俺らもさっさと帰ろう、と春都に言おうと降りた俺に、衝撃的な事実が。


「愁、こいつが嵐を守ったと」

「あ?」


こいつと指差す方には、全身真っ黒な男か女かわからない人間。

自然と睨みを利かせ見る。


「どこの輩だ」

『…ッッ、や、から?』

「…?……てめえ女、か?」

「え!??」

『どこをどう見ても……ッッ、女ですけど』


輩、と言った俺に、上擦った高い声が返ってきて、やっと性別がわかった。


「組のモンじゃ無さそうだな」

『一般人で、す』

「こんなところで何してんだ」

『イジメを止め、ようと』

「お前…肩血出てんぞ」

『…病院行きます。じゃ』


一般人が?男同士のかなり激しいイジメを?

少しハスキーな声で淡々と述べる女。

フードを被りマスクをしているせいで、表情は見えないが、凛とした目がこちらを捉えている。


ーーードキリ


一瞬心臓が跳ねた音がした。


「乗れ」

『!?!?』


刺されていない方の手を引っ張り車に押し込む。

これはかなり衝動的だった。


『…ったいな!ちょっと!?』

「春都、出せ。松山のとこだ」

「はいよ」

『自分で行けます。すぐ降ろしてください』

「……」


ーーー第一印象、

気が強い、というか全てが強い。

目も力も言葉も。


惹かれたと気付き始めたのは、手当している病室に入った瞬間。


少しはだけている服から覗く白く細い腕。

フードを被っていて見えなかった、背中を覆う黒髪。


そして最後のあの台詞。


"骨抜き"とはこういうことか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る