5

「肩見せろ」


私の声を無視し、刺された方の腕を掴む。


『っった…なにすんの』

「血を止めてんだ。動くな」


そう言いながらどこかから取り出した布切れを、肩に巻き強く締める。


眉をしかめることしかできない私に、長身の男が口を開く。


「名前は」

『みずき』

「歳は」

『じゅ、18』

「え!?高校生!?」


私の言葉に、運転席から目を丸くして顔を覗かせた春都さん。


「なんであそこにいた」


そんなのどうでもいいかのように、問いを続ける長身の男。


『クラブ…習い事の帰りでした』

「あんな所通るんじゃねえよ」

『どこに向かってるんですか。帰らないと母が心配するんですが』

「こんな肩で帰るのか?」

『病院へ行こうとしたら、車に乗せられたんですけど』


睨みながら言っても、眉ひとつ動かず、足を組んでタバコを吹かす長身の男。


『臭い』

「あ?」


ボソッと呟くと、私の睨みなんか可愛く見えるくらいの鋭い睨みが少しだけ目に入る。


「愁、瑞綺ちゃん着いたよ、降りて」


車があるビルの前で停まり、春都さんが運転席から顔を覗かせた。


「行くぞ」

『どこですか、ここ』

「病院」


ぜっったい違うだろ。どこが病院だ。ただの5階建てのビルじゃねえか。


私は言い返す気力も無く、男について行くことにした。

あ、でも…


『母に連絡してもいいですか』

「なんて言う気だ、攫われたとでも?」

『喧嘩に巻き込まれて手当してもらってる、とでも。心配はかけたくないので』


私はパパッと携帯に指を滑らせ、送信ボタンを押す。


「着いて来い」


長身の男の後を追い、ビルの中へ入って行く。

薄暗い通路の先のエレベーターに乗り、2階へ。

ドアが開くと、そこは…


『…病院だ』

「おーーいまっちゃーーんー?いるーー?」


完全に病院の匂い。

立ち止まっている私の前で春都さんが、誰かを呼ぶ。


「ったくうるせぇなぁ、何時だと思ってんだ。オジちゃん寝る時間なのに」


ブツブツと何かを言いながら1つの部屋から出てきた、白衣の中年男性。


「すんませんねえ、この子喧嘩に巻き込まれて肩刺されちゃったみたいで。お願い!手当して?」


手を合わせてお願いポーズをとる春都さん。


「…刺された?巻き込まれて?…嬢ちゃんこっちおいで」

「瑞綺ちゃん手当してもらって?俺らここで待ってるから」

「頼んだぞ、松山」


私の背中を、行けと押す長身の男。

そして部屋の中へ。


松山という男に促され、椅子に座る。


「ちょっと見せてね。……この包帯愁か、上手く巻けてんな」


布切れを外しながらブツブツ言う松山さん。


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