真希のご褒美2

 透子が無事試合で勝利を収めるのを見届け、俺たちは高校から出た。


 それから車で数十分と移動し、ショッピングモールに移動した。


 大きな自動ドアを開いて入ると、両側にお店が立ち並ぶ一般的なショッピングモールの景色が広がっている。


 入り口にある案内マップを見た。

 女性向けの店舗がほとんどだが、男性向けの店舗もそれなりに存在する。


「えーと、あー、と」


 自分の財布の中を見てあわあわする真希。


 この世界のショッピングモールには、比較的男性客が多い。

 それは貢いでもらえる男性の娯楽として、優秀な施設だからだ。


 真希もそんな価値観から、財布を取り出して慌てているのだろう。


「真希」

「は、はい」

「俺が奢るから気にしないでいいよ」


 真希は「え」と短い声をあげた。


「だ、ダメですよ! そんな女性が男性に奢られるだなんて!」

「気にしないでいいよ」


 奢る、と言っても、実際俺が稼いだ金ではない。

 この世界の母が残してくれた遺産から支払うので、母の意思を継ぐならば真希含め、シェアハウスの皆のために使うのが真っ当なのだ。


 俺も大家としては普通に、いや普通以上に働いているため、自分の金というところに自信がないわけじゃないが、やはり多額の金銭を残してくれた母に義理立てするためにも、生活に支障がない範囲で彼女らに投資したいというのが本心である。


「い、いやだって」

「ご褒美だし、気にしない。高校生の真希が、普段親に奢らないでしょ」

「えっ?」

「パパって呼んでよ」


 真希は目を白黒させたあと、気恥ずかしげ呼んだ。


「パ、パパ……」

「うん、真希」

「む、無理です!! 恥ずかしすぎます!!」


 顔を真っ赤に首を振る真希だけど、喜んでいるのはわかる。

 ちゃんとご褒美になっているな、と感じたので続けることにした。


「パパじゃないなら、奢らないけど。真希、財布は温かい?」

「うっ……及川さん、お願いします」

「及川さん?」

「パ、パパ!!」


 真希の顔が茹で蛸状態で可愛い。

 ちょっとしたSっ気がくすぐられて、もっと揶揄いたくなってしまう。

 前世の男子高校生にママと呼ばせる女子大生はこんな気分なのだろう。

 まあそんな女子大生を見たことはないのだけど。


「真希ちゃん、行こうか」

「う、うぅ。はい」


 恥じらう真希をつれて、モール内を練り歩く。

 ちらちらと俺に視線が集まるのは慣れたもの。

 あの人綺麗、とささやく声に最初は大変気分がよろしかったが、今はシェアハウスの子に集中、と欲望を絶っているうちに気にならなくなった。


 逆に真希はというと、嫉妬と羨望の視線に耐えられないみたい。


「そんなに小さくなってどうしたの?」

「い、いや、そのぅ。私が及川さんといるのが忍びなくて」

「一緒にいるのは、嫌?」

「い、いえ。嬉しいんですけど……」

「ならいいよ。俺は真希といられて楽しいし」

「へっ!?」


 ぴょん、と驚いて飛び上がった真希を見て笑う。


「そんな驚くことじゃないよ。真希は可愛いし、面白いし」

「いやいや、私そんなんじゃないですって!」


 どこからどう見ても美少女。

 真希は学業優秀で真面目で優しい子。

 生活力が皆無なのと、ティッシュの浪費家な部分に目を瞑れば、完璧な美少女だ。


 なのに、どうしてそれほど自尊心が低いのだろう。


「真希ってさ、自信ないよね。どうして?」

「え? それは……多分、透子と一緒に育ってきたからですかね」

「というのは?」

「さっきも見た通り、透子って凄いじゃないですか。テニスに限らず、透子は天才なんですよ」


 真希は嬉しそうに語った。

 比較して嫌になる、というわけではなく、単純に強い光を浴び続けたせいで自信を失っているようなものなのだろう。

 たしかに、透子は節々にセンスを感じる天才美少女なのかもしれないが、真希にだって良いところは沢山ある。


「でも、真希だって凄いよ」

「いやいや、そんなことないです」

「そんなことなくない。今日だって透子がお弁当を忘れてるって届けに行こうとしたよね?」

「え、まあ」

「それって普通に出来ることじゃないよ。真希はいつもしっかりしてる。もう少し大きくなればわかるけれど、しっかりしているってのは才能だよ。皆から重宝されるし、誇っていい」


 パッと顔を明るくさせた真希だが、また自嘲の笑みを浮かべた。


「いやでも、透子がズボラだから真面目にならないとって真面目にしているだけです。私はそんな大層な人間じゃないですよ」

「大層な人間だって。真希はいつも頑張ってる」

「……ありがとう、ございます」


 じわじわと頬を染めていく真希の頭を撫でる。


「だから甘えていいんだよ。頑張ったご褒美に、パパに甘えなさい」


 硬直していた真希。

 言われたことへの喜び、尊厳と理性を守る葛藤、そして欲望に色を変えた。

 だんだんと目が蕩けてきて……ハートが浮かんだ。


「パパ……。えへへ、パパ、パパ、パパ!」


 もっと撫でてという風に、真希は背伸びしてぐりぐりと頭を手に擦り付けてきた。


 三つ下の子が、パパ、パパ、と甘えてくる。

 前世では二十歳のお姉さんにママ、ママ、と甘えるようなもの。


 ……うわ。きっつ。


 とは思ったが、仕向けたのは俺なので真希を甘やかすことにした。

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