貞操逆転世界に転生した俺は、頑張ったご褒美にHなことしてくれるお兄さんになってしまった
ひつじ@12/10書籍発売予定
プロローグ
唐突ではあるが、一週間前、俺は異世界へ転生した。
異世界とは言っても、現代日本とほぼ変わらない『貞操逆転世界』。
男女比は1:9。左利きやAB型と同じ割合で、男が極端に珍しいわけではない。
重婚と人工授精技術の発展で人口が維持されているし、社会に大きな支障があるわけではない。
だがそれでも、女性の性欲は強く、男性は渇望される世界。
ネット小説で見かけたことがあったので、ここが『貞操逆転世界』だ、と俺はすぐに気づいた。
正直、転生した現実に最初は戸惑った。だが今は、前向きに考えている。
折角、そんな男に優しい世界に転生したのだから、2度目の人生をイージーモードで楽しもう、と。
——しかし、その前にやらなければならいことがある。
「よし」
小さく拳を握り、顔を上げる。
目の前には、三階建ての豪邸。
箱っぽいシルエット、シックな色、広い敷地を囲む塀。
玄関扉の横にはガレージがあり、監視カメラが目を光らせている。
「今日からここが俺の家で、職場か」
インターフォンを押さずに侵入し、指紋認証で玄関扉を開ける。
一般家庭とは異なり、ホテルライクな洒落た空間が広がっている。
だが、内装に似つかわしくない、脱ぎ散らかした靴、パンパン詰まったゴミ袋。なんならパンツが廊下に転がっていた。
ドキリ、としたのは一瞬。すぐに落胆に塗り替えられる。
「この世界の母さんも遺言に残すはずだ……」
自我は100%現代日本に住んでいた、家事が趣味の一般人の俺。
だが、この世界の記憶も、映画で見たみたいに残っている。
この世界の俺は及川幸と言い、見た目は綺麗な二十歳のお兄さん。
内実は、女性恐怖症で引きこもり、頻繁に癇癪を起こす上に、浪費家。
母親が『それでも我が子』と愛し、一生懸命働き、健気に尽くしてくれたおかげで、今まで生きてこれたクズ男だ。
そんな彼は、不慮の事故で母を亡くしてしまうと、遺産を食い潰して生活を送るように。
やがて、孤独に耐えきれなくなり、最後は首に縄をかけた。
……そこでこいつの記憶は終わり。その先は転生してきた俺が、及川幸として生きている。
まあろくでもない経歴はどうでもよく、大切なのはこの世界の母親のこと。
惜しみない愛情を向けた息子に酷い扱いを受けたまま亡くなり、その息子も亡くなってしまうのだ。あまりに不憫で居た堪れない。
彼女に、何の思い出も、愛着もないが、今の俺の体を産み育ててくれたのは彼女。
俺が及川幸という人間として生きていく上で、彼女に恩を返さないという選択肢はない。
そんなわけで俺は、この世界を謳歌する前に、彼女の心残りを解決しようとここにいる。
——愛する息子と、あの子たちがちゃんと生活出るか心配、あの子達が立派に家から巣立てるか心配だわ。
最後の最後まで自分を差し置き、人の心配をしていた彼女の声が聞こえた気がした。
彼女の心残り。それはこのシェアハウスに住まう女の子たちが、立派に育って出ていくこと。
「よし、やるか」
まずは掃除からだな、と12月の寒さに負けることなく腕を捲った。
***
キッチンで洗い物をしていると、ドタドタと忙しない足音が聞こえ、リビングの扉がバンと開いた。
「うんわあ〜! 何これ何これ何これ!? すっごく部屋が綺麗!! ってええ!? 何この料理!? 美味しそうすぎる!!」
驚愕する声を聞いて、俺は蛇口を閉める。
濡れた手を拭いて、最後の一人が帰ってきたな、とキッチンからダイニングに出る。
「というか、なんで、みんなは静かに行儀良くテーブルに……」
声を発していた女の子が、俺を見て固まった。
「初めまして。さ、座って」
硬直して数秒。女の子の顔がじわじわと赤くなっていく。
やがてロボットのようなガチゴチの動きで空いた椅子に座った。
「じゃ、食べながら話そっか」
俺も席につき、長くて広いダイニングテーブルに並べられた自作の料理に手を合わせる。
「いただきます」
そう言うと、ぎこちない声が続いた。
テーブルについた5人の女の子たちの表情は硬い。
緊張しているな。でも、食べたら和らぐだろう。
毒味を率先するみたいに、唐揚げを一つ箸で摘む。
指を添え、ふーふーと息を吹きかけ、口にそっと入れる。
カリッとじゅわっと唐揚げの美味しさが広がって頬に手を添えた。
溢れ出る肉汁は唇に漏れてしまうほど多く、ちろりと舐めとる。
美味しい。自画自賛だけど納得の出来。食べたら皆も緊張が和らぐだろうと思って、周りを見る。
するとテーブルについた5人の女の子たちは、皆顔を赤らめ、じっと俺を見ていた。
「ん? 食べていいよ?」
皆は慌て、震える箸でおかずを摘む。
一度口に入れると目を見開き、ガツガツと口に入れ始めた。
俺はそんな様子を満足して目を細める。
どうやら緊張は解けてきたみたいだ。
「お、美味しいです!」
「こんなの食べたことない……うますぎる」
「大家さんが亡くなられてから、初めてのまともな食事……涙まで出てきました」
「ありがとう。気に入ってもらえて嬉しい。これから毎日作るつもりだから、口にあわなかったらどうしようかと思ってた」
「え……!?」
驚愕の声を重ね、目を見開いた皆に笑いかける。
「最後の子以外は改めまして。母のあとに大家を務めます、及川幸です。みんなが頑張れるように、掃除、洗濯、料理、その他のこともサポートしたいと思ってます。今日から空き部屋に住みますので、何かあったら遠慮なく訪ねてくださいね」
俺の自己紹介にはノーリアクション。声すら起こらない。
だがバクバクと心臓の音がうるさいくらいに聞こえた気がした。
「し、質問です。そ、その及川幸さんは、ど、どどど、どうしてそんなことを?」
しばらくして最後に帰ってきた子が、恐る恐る手をあげた。
「母に遺言で頼まれたんです。皆がちゃんと生活できてるか心配、立派になってこの家を出ていくか心配だ、って」
皆の瞳にきらりと光が宿る。どうやら相当慕われていたようだ。
「及川さん……。私、安心できるよう立派になるから、お空で見ててね」
そう口にした女の子に皆が同意して頷く。場には淋しい空気が漂い始めた。
「はい! そういうわけだから、自己紹介! 俺に皆のことを教えて! 名前と職業、それと一番近い目標! じゃあ質問してきた、君から!」
しんみりとした空気を嫌い、俺はわざと明るく振る舞った。
「え、えっと、私、大学一年生の仙頭水羽です。特にこれといった特技も長所もなくて普通ですみません。一番近い目標は……あ、小テストがあります。その及川さんに胸張れるように頑張ります」
「うん、よろしくね。仙頭さん」
「はぅっ」
仙頭さん、か。
たしかに普通の女の子、といった素朴な雰囲気があるけれど、ちゃんと見れば並はずれた美少女だ。
丸みを帯びた輪郭の、無邪気な可憐さが印象的な顔。
澄んだ茶色の大きい瞳は、喜怒哀楽でころころと色合いが変わる。
艶のある栗色の髪は、肩口あたりまでの長さで可愛く、先から先まで綺麗。
毛先はゆるやかに外に跳ねているのも、愛嬌があって可愛らしい。
小柄で華奢ながらも、むぎゅっと抱きつきたくなる柔らかさを残した体つきも好きな人はたまらなく好きだろう。
「それにいい目標だね。前回は何点だったの?」
「えっと、75点です」
「よし! じゃあ次はそれより上を狙おっか!」
「は、はい!!」
じゃあ次の人、と目を向ける。
「樋口沙耶香、19歳です。水羽と同じ大学。演劇部員で、たまに女優やってます。直近の目標は、映画のオーディションで受かること」
人を虜にしてやまないセミロングから少し長めの茶髪。
前髪は目にかかるくらいあるけれど、クールさや冷静さを思わせる切長の瞳の美しさを隠しきれていない。
無表情がよく似合う澄ました口元、雪のように白い肌、クールさの中に滲む小悪魔感。
彼女もまた美少女だ。
「よろしくね、樋口さん。精一杯サポートするから練習頑張って!」
白い頬をほんのりとピンクに染めて、彼女はこくりと頷いた。
「はーい! 次私ですね!」
元気よく手をあげた女の子。二人の後で緊張が解けたみたいだ。
「錦見光って言います! 大学生で、年齢は20歳になったところです! 配信者がんばってます! 今週中に目指せ同接三桁!」
ショートカットの金髪がサラサラと揺れ、甘い香りがふわりと漂った。
普段から見る人をパッと明るくする笑顔、140センチ後半だけど手足が長くてスタイルがよく、何より胸が大きい。下品かそうでないかの境界ギリギリのサイズだ。
だけどやはり目を引くのは、明るい雰囲気。ぱちぱちと炭酸が弾けるようで、痛みと言えそうなほど刺激があって、この子もまた可愛い。
「いいね、錦見さん。夜食が欲しかったらいつでも呼んでね」
やーん、と頬に手を当ててデレデレする光から、次の子へ。
「高校二年生の阿澄透子。てにすがんばってます、よろしく」
ふわふわと浮くような口調、耳の奥まで透き通る声で言ったのは、阿澄透子。
艶やかさとサラサラさを兼ね備えた黒髪は、ショートとセミロングの中間の長さ。
髪質は指を通せばするする抜けていくようで、爽やかさが際立っている。
シミ一つない肌、丸アーモンドの澄んだ瞳、淡い桃色の薄い唇、どこもどこまでも透き通っている。
顔は中性的で美しく、体型もスレンダーで雑味ひとつない。
透明感溢れる美少女だけど、彼女の美乳には存在感があり、性からかけ離れた存在ではないと主張している。
「よろしく、透子。目標は?」
「透子……あ、え〜と、練習試合」
「あるんだ? じゃあ栄養価考えてお弁当作るね」
「……うん」
はにかんで頷いた透子から最後の一人。
艶やかな長い黒髪に、お人形さんみたいな整った顔。
つるすべの身体も、フィギュアみたいにスタイルが良い。
雰囲気は委員長といった感じで、真面目な感じが透子と対照的だ。
「透子の同級生の伊野真希です。勉強と文学を嗜んでます。直近の目標は、部内の文芸コンクールで賞を取ることです」
「よろしくね、真希。俺よりしっかりしてそうだ。逆に助けてもらうことになっちゃいそう」
「う、うん」
自己紹介が終わり、俺は、よし、と口を開く。
「それじゃあ皆、俺が全力でサポートするから、母さんに胸張れるように頑張ろ〜!」
皆は俺の言葉に「お〜」と賛同の声を上げた。
***
——1週間後。
俺の目の前には、散々な結果の報告書が並べられていた。
「な、なんでこうなった……?」
普通こうはならないレベルで悲惨な結果に困惑していると、皆から手が上がった。
「「「「「おにーさんがエッチすぎて集中出来ないんです!!」」」」」
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