非常階段の先は雲の上

天使猫茶/もぐてぃあす

非常用螺旋階段

「非常時以外使用禁止」


 家の近くの地下鉄にある地上へと向かう螺旋階段にはそう書かれていた。だが地上に出て確認してみてもその螺旋階段に繋がっていそうな場所はない。

 一体どこに繋がっているのだろう。僕はその螺旋階段を見かけるたびに常々そう考えていた。


 そんなある日、飲み会でひどく酔っていた僕は終電でその駅に降り、そしてその螺旋階段を目にした瞬間に常日頃から感じていた疑問が一気に噴出した。

 螺旋階段の前にはチェーンがかけられているが、屈むか、それとも乗り越えるか。いくらでも中に入ることはできる。その前に立った僕はそっと辺りを見回す。

 暗い駅のホームには僕以外には誰もおらず、遠くで切れかけの白色灯が静かに瞬いているだけだった。


 僕はえいやとチェーンを乗り越えると、一気に螺旋階段を駆け上がった。




 それから一体どのくらい登っただろうか。もうとっくに地上に出てもおかしくはないくらいには上がったはずなのに、まだ出口は見えない。上も下も螺旋階段で見渡す事が出来ない。

 壁に取り付けられた薄オレンジ色の弱い明かりだけを頼りに階段を登りながら僕の頭は後悔で一杯になる。


 なんでこんなことをしてしまったのか。

 酔いも覚めた頭を振り、重たい足を引きずるように階段を上っていた僕の視界が不意に白一色に染まる。


 目が眩んでなにも見えていなかったが、しばらく待っているとようやく目が慣れてくる。そして僕の目の前に広がっていた光景は、一面の雲と、そしてその上を飛ぶ白い羽の生えた子どもの姿だった。


「天使?」


 思わず呟いた僕に気が付いたのか、その天使のうちの一人が寄ってくる。そして僕の方へと質問をしてきた。


「あれ? ついに地上滅びました? それ用に非常階段置いていたんですけど」




 こうして僕はしこたま怒られはしたが、来てしまった以上は地上に帰すわけにも行かないし仕方ないということで天国で暮らすことになった。

 そして時折現れる、僕と同じような方法で天国へと来てしまった人を案内しながら考える。

 天国の警備、いくらなんでも緩すぎはしないだろうか?

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