四 そろそろ本格的に鍛えるか

 あれから更に一年が経った。

 猿? ああ奴さん死んだよ。

 乗り込んだらでかい猿が土下座して待ち構えていた。

 どうやらこいつが元凶らしい。

 話を聞いたところ過去に何人か呪い殺してるそうなので、情状酌量後の余地はない。

 なんで釈明をするといって自分がいかに偉大かを語ろうとするんだよ。

 自己愛の塊か、溝にステちまえそんなもの。

 というわけで適当にモヤでボコして退治しておいた。

 残念ながら、モヤを変形させて攻撃する前に消えてしまったので、実験には使えなかったが。


 果たしてそれは、あの八尺様が強かったのか、このエテ公が弱かったのかは不明。

 俺が強くなったという可能性もあるが、なんとなく認識阻害で人から隠れる手段を取ってる猿野郎の弱さが原因な気がする。


 ともあれ、それから数カ月ほど一緒に学校生活を送り、シイカはまた転校していった。

 ここでの思い出がアレば、これからも頑張れる、とのこと。

 俺はせっかくなので、猿の奴を倒した時にドロップしたお守りを渡しておいた。

 同じ学校にいるうちは、俺もシイカのことを守れるだけ守りたいとは思う。

 しかし、流石に転校してしまってはどうしようもない。

 だからこそ、あのお守りはシイカを守るのに役に立ってほしいと願う。

 俺の生命力もたんまりお守りに込めたことだし。

 なんとかやっていけることだろう。


 小学四年生、一般的に人は十歳くらいから本格的に身体づくりをしてもいいらしい。

 鍛える方法はスポーツをやるのが手っ取り早いだろう。

 ただ、野球やサッカーといった王道スポーツはどうしてもチーム競技だ。

 俺は霊感があって、そのせいで幽霊に狙われる可能性がある。

 その時、仲間を巻き込めないからチーム競技はできない。

 となると柔道や剣道などの個人競技が最適か。

 とはいえそこまで本格的に鍛えたい、というわけではないんだよな。

 なにせ俺の目的はあくまで自衛。

 襲いかかってくる怪異どもから自分の身と周囲を守れればそれで十分だ。

 かといって、素人が適当に鍛えても成果は出ないだろう。


 そう考えた時、俺にとって一番”素人じゃない”鍛え方ってなんだ? という疑問に行き着く。

 普通の子どもであれば、それこそ普通に鍛えればいいだろう。

 でも俺の場合は、生命力による賦活という方法で普通とは違う鍛え方をする。

 要するに、俺の鍛え方には素人じゃない指導者はいないのだ。

 これはこまった、やはり独学で鍛えるしかないのか?

 そんな時だった。

 俺は、あることを思いついた。



『ミ、ツ、ケ、タ』



 ――いるじゃないか俺には、ちょうどいい鍛錬の相手ってやつが。

 久方ぶりに現れた悪意ある霊が、俺を見下ろしている。

 俺の力は人と喧嘩をするためにあるものじゃない。

 怪異を退治して身を守るためにあるのだ。

 だったら実戦で、それをより磨き上げればいいだろう。

 そう、怪異の胸ぐらをつかみながら、俺は考えた。

 何が見つけただよ、見つけたのは俺の修行法だよ。

 オラッ! 何のために来たかはしらないけど経験値になれ!

 お前悪霊だろぉ!? 匂いで分かんだよ溝を一回全部さらって、出てきたものを三日三晩熟成させて腐らせたみたいな匂いさせやがってよぉ!

 人様に迷惑掛ける前に掃除されて自然に帰れ! このままじゃスギ花粉くらいにしかなれねぇぞ!


 というわけで怪異は退治された。

 しかし結局、タダの怪異ではろくに経験を積めそうにない。

 そもそも次にいつ怪異が襲ってくるのかもわからないのだ。

 こっちから仕掛けたエテ公の一件を除くと、俺はここ数年ろくに怪異と出くわしていないのだから。

 ――ん、こっちから仕掛けた?


 それだ――!


 かくして俺は、街のハズレにある心霊スポットにやってきていた。

 時刻は夜――というわけでもなく、夕方。

 まだ空は日が傾き始めたところだ。

 小学生だからね、あんまり遅くに帰って両親を心配させてはいけない。


 この世界の心霊スポットには、当たりハズレがある。

 普通に何も出てこないスポットもあれば、本当にやばいものが出てきてしまう場合も多々。

 当たり外れを判断するのは、噂の”数”で検証するのが一番だ。

 数が多ければ多いほど、そのスポットは

 だってそれだけ、訪れた人間が多く認知度も高いってことだからな。

 なので学校ではやってる怪談の中から、殆ど話題になっていなかったスポットを俺は選んだ。

 場所は町外れの廃ビル。

 かつてここでは、立て続けに事故が発生し、最終的にビル自体が呪われているとして打ち捨てられてしまったそうな。

 廃ビルって時点で、何かしら噂も立ちそうなものだというのに、全く噂がでてこない。

 中に入ると、落書きなどをされた様子もなかった。

 ここが不自然に忘れられている証拠だ。

 事実、俺は入った直後から、ここにいる怪異の存在を肌に感じていた。


 両手には生命力のモヤ。

 生命力は完全全開。

 準備は万端だ。

 そう考えて、一歩ビルの奥へと足を踏み入れ――



 その瞬間、悪霊達は一斉に俺から逃げ出した。



 ちょっと待てよ!?

 俺は慌てて逃げ出す怪異にモヤをぶつけていく。

 どうやらここにいるのはよっぽど弱い怪異のようで、一発殴れば怪異は即座に消えてしまう。

 どうやらここにいる怪異は、弱い霊のあつまりだったらしい。

 だからビルの噂をできるだけ減らして、潜んでいたとすれば色々納得だ。

 しかしどいつもこいつも悪意だけはいっちょ前に持ってやがる。

 退治しなきゃ行けないことには行けないんだが――


 これじゃどっちが怪異かわかんねぇよ!


 俺はそう嘆きつつ、生命力のモヤをぶんぶんと振り回した。


――――

お読み頂きありがとうございます。

フォロー、レビューいただけますと大変励みになります!

ぜひぜひよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る