第28話 大活躍

 高野さんが自分の練習場所へと帰っていった。


 すると、芦屋のヤツがまたイケスカない男に戻った。


「言っとくけど、遙香ちゃんはみんなに優しいだけだからな。そっちのボーッとしたヤツ、勘違いすんじゃねえぞ」


 コイツ、俺が高野さんと仲良くしてるのを見て、嫉妬したんだな。


 続けてまた芦屋が文句をたれる。

「ケッ、冷やかしならサッサと帰れよな。ウチの陸上部は遊び感覚でやるような場所じゃねえんだよ」


 うーむ…… 俺が恋愛絡みで、他人から嫉妬されるなんて。

 俺も立派になったものだよ。


 それはさて置き。

 早速、俺とライトを含む見学者7人と芦屋で、100m走をすることになった。


「試しにちょっと走っていいぞ」

 と、目つきの悪い先輩に言われたので、トラックの上を軽く走ってみる。


 なんだろう、とても体が軽い


 そうか、俺はスキル『身体強化〈中〉』をもらったんだ。

 これは常時発動型のスキルだから、俺はいついかなる時も体が強化されている状態なんだ。


 HPのことばかり考えて、身体強化スキルのことはあまり頭の中になかったな。

 だって…… HPがなくなったら窒息するんだから仕方ないじゃないか。


 あ、そうか。

 この前、山奥まで往復4時間かけて自転車を漕げたのも、きっとこのスキルのおかげだ。

 あの時はまだ、身体強化スキルは〈弱〉だったけど、それでもずいぶん効果が発揮されてたんだと思う。

 高校生になって体力がついてきたのかな、なんて喜んだけど、あれはきっとスキルのおかげに違いない。



 俺の周りでウォーミングアップしているライトは、

「じゃあ、芦屋ってヤツを倒して、高野さんのハートをいただくことにするか」

 と、張り切っている。


 ライトはいいヤツだけど、高野さんのハートを持っていかれるのはクソ面白くないので、俺も頑張ることにしよう。



 ——パン!


 号砲が鳴ると同時に、みんな一斉に走り出す。


 気持ちいい!


 嘘みたいに、俺の体が前へ前へと進んでいく。


 俺の前には誰もいない。


 風を切り裂き、ただゴールを目指して走り続ける。



「えええーーー!!!」


 周囲から驚きの声が上がった。


 気がつくと、俺は一着でゴールしていた。



 かけっこで1番になるなんて、こっちの世界に来て初めてだよ。

 運動会の前日の夜には、心の中でいつも雨乞いの儀式をしてた俺が1番だよ。


 あ、でも陸上部の芦屋にも勝っちゃったけど、よかったのかな?

 まあいいか。

 陸上部所属とはいえ、同じ1年生なんだからね。


 なんてことを考えながら、改めて周囲の様子を見渡してみると——


 みんな驚いた顔をしている。


 また高野さんが、女子の先輩と一緒に全力疾走で俺の元へ向かってくる。


「田中くん、スゴいよ!!!」


 エヘ、高野さんに褒められちゃった。


「ちょっと君! ——」

 女子の先輩も、興奮気味に話し出す。


「——芦屋くんに勝ったの? 芦屋くんは市内陸上大会の中学生チャンピオンだったんだよ!?」


 え?

 ひょっとして、やり過ぎちゃったのか?


 目つきの悪い先輩も慌てて駆け寄ってきた。

「君、スゴいじゃないか! 名前はなんだっけ? あっ、俺は陸上部キャプテンの鈴木っていうんだけど。とにかく、是非とも陸上部に入ってくれ!」


 陸上部に入部?

 でも……

 スキルのおかげで足が速くなったの、バレたりしないかな?


 ここは即答を避け、少し考える時間を作った方がいい。


「いやいや、今のはタマタマですって」

 俺は慌てて言い訳するが、


「たまたまで、あんな走りが出来るもんか!」

 と、目つきの悪い先輩改め鈴木キャプテンが、尚も食い下がってくる。



 でもやっぱり、ちょっと待って欲しい。

 確かに俺は、陸上部に入れたらラッキーぐらいの気持ちは持っていた。

 陸上部に入って女子と話せたら、HP的にとてもありがたい。

 でもそれは、あくまでモブ的な部員として入部したいということだ。


 目立ちすぎるのは、流石にマズいのではないか?

 女神様は言っていた。

 スキルは上手くゴマカして使えと。


 今の俺、全然ゴマカせてないよね?


 ダメだ、これ以上目立っては、あとで女神様に絶対エラい目に合わされる!


「あの…… そうだ! 俺、足は速いんですけ、病弱なんです。ほら、さっき高野さんも言ってたけど、俺、教室で倒れちゃうほど病弱なんですよ。だから陸上部は体力的にキツいかなって思ったりして、アハハ……」

 俺は病弱キャラを演じて、この危機から脱しようとしたのだが……



 キャプテンがものすごい圧を発しながら俺に迫る。

「じゃあ、無理のない程度でいい。自分のペースで練習していいから、是非とも陸上部に入部してくれ!」


「いえいえ、俺なんてとても——」



 女子の先輩も、ものすごい勢いで勧誘してくる。

「そんなこと言わずに、入部してよ!」


「ありがたいお話ですが——」



 高野さんも興奮気味に口を開く。

「私も田中くんが陸上部に入ってくれたら嬉しいな」


「わかった。俺、入部するよ」



「……カンタ、お前、わかりやすいな」

 ライトがなんか言ったようだが、ここは聞こえないフリをするとして……



 嗚呼ああ、俺ってば、なんで即答したんだよ!?

 でも、仕方ないんだ。

 そう、これは仕方のないことなんだ!


 16年間女子とマトモに話したことがない俺が、美人で性格の良い高野さんからの勧誘を断れるはずないじゃないか!

 いや、これは俺に限った話じゃない。

 こんなお願いされたら、全人類の男子のうち、95パーセントは陸上部に入るはずだ!

 なんなら女子だって入るに違いない!


 ハァ…… なに考えてるんだろ、俺。

 ちょっと冷静にならなきゃいけないな……



 その後いろいろと話し合った結果、しばらくの間は『仮入部』という形で、体調の良い時だけ練習に参加することになった。


 スキルのことは……

 なんとかゴマカしながらやっていくしかないな。




 その日の夜。


 俺はまた女神様が登場して、100走で目立ちまくってしまった件について、ヒドいお仕置きをされるのではないかとビクビクしていた。


 でも、女神様が現れる気配がない。


 うーむ…… 女神様的には、俺の今日の活躍について、別に問題はないと思ってるのだろうか。


 なら、明日も陸上部に顔を出してみようかな。

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