第17話 レベル3は1日32会話
只今の時刻は12:30過ぎ。
俺は今、そそくさと教室から出て、コソコソと校門を目指して歩みを進めている。
今日は午後から学校あげての進路説明会みたいなものがあるらしく、俺たち新入生は午前中で家に帰らせてもらえるそうだ。
3日前に新入生を迎えたばかりだというのに、学校というところはやることがいろいろあって大変だね。
そういう訳で、俺はこの後、我が家でのんびり過ごせるのだ。
そう、今日は高野さん、優木さんといっぱい喋ったため、HPがたんまり残っているのだ。
現在の所有HPは、なんと30。
1限目終了後はもちろんのこと、その後の休憩時間にも2人とちょくちょく会話を交わした結果だ。
これから夕方にかけて8HP消費されるが、それでも貯金が残るのだ。
HPの貯金が出来たのは本当に嬉しい反面、俺にとって最も恐れている事態も迫りつつあるように思う。
俺が最も恐れること、それはもちろん——
レベルアップだ……
女神様は『アタシの基準で判断する』って言ってたけど、やっぱり一定以上のHPが貯まると、レベルが上がってしまうような気がするんだよな。
そうなると、1日のHP消費量も増えてしまうだろう。
現在レベル2の俺が消費する1日あたりのHPは16。
レベル3になると、おそらくそれが32に増加するものと予想している。
1日に32回も女子と言葉を交わすなんて、想像するだけで恐ろしい。
だから今日はこれ以上、女子と話をするのは危険なのだ。
いや、絶対に女子と関わってはいけないと思うのだ。
そんな訳で、俺は校門を出て早足で自宅に向かっている。
でも……
——ガシッ!
背後から肩を掴まれた。
恐る恐る振り返ると——
そこには長い髪を振り乱し、般若のようなな怒りの
「ハァハァ…… アンタ、ナニ勝手に帰ってんのよ」
メチャクチャ息を切らしてるし……
きっとここまで走ってきたんだろう。
昨日、純也ともども、あんなに闇の世界の話で盛り上がったんだ。
今日、ひと言も言葉を交わさないなんて不自然だよな。
本当は人目のないところでコッソリとサヨナラの挨拶をしようかとも考えたのだ。
でも話が盛り上がって、これ以上HPが増えたらどうしようとか思っちゃって……
そう言えば、純也が言っていた。
九条さんがとても喜んでたって。
自分が困ってる時には九条さんを利用するような真似をして、必要がなくなれば関わりを避けようとするなんて。
よし、俺は覚悟を決めたぞ。
九条さんには昨日、助けてもらったんだ、HP的に。
受けた恩は返そうじゃないか。
「九条さん、俺今、トイレに行きたいんだ。話はその後でもいい?」
嘘をつくのは良くないけど、とりあえず、いまの状況をゴマカそう。
決して関わりを避けてたんじゃないんですよという雰囲気を出すんだ。
でも本当は避けてたんだけど……
うわぁ、俺、やっぱり最低だよ。
九条さんが、俺の顔を覗き込む。
「顔色が悪いわよ?」
きっと罪悪感が顔に出ているのだろう。
「わかったわ、あなたってば——」
「——すっごくウンコしたいのね」
「全然したくないよ!!!」
俺は大声で叫んでしまった。
実家が大財閥である九条さんは、とてつもないお嬢様だと純也は言っていた。
お嬢様って、いろんな意味で庶民とは言語感覚がズレてるのかな?
「ちょっと、九条さん。女子高生がウンコなんて言っちゃあ、いけない…… あれ? どうしたの、九条さん?」
あ……
九条さんの動きが止まっている。
周囲の車や自転車の動きも止まっている。
ハァ…… やっぱり来ましたか……
「パンパカパーン! おめでとうカンタス! あなたのレベルが…… 以下、省略!!!」
陽気な女神様のご登場だ。
「フゥ…… やっぱりレベルアップしたんですね」
「……なによ、そのウッスいリアクション。レベルが上がったんだから、もっと喜びなさいよね」
ハイテンションな女神様は放っておいて、心の中で『ステータスオープン』と唱える。
名前 : カンタス(田中寛太)
カッコ内は、今回増加分の数値、あるいは補足説明
レベル : 3 (+1)
スキル : 超初級火・水・風魔法
初級火・水・風魔法 (新規獲得)
身体強化〈弱〉[常時発動](新規獲得)
HP 1
MP 200(+100 :レベル1上昇につき100追加)
称号 : 挨拶のスペシャリスト
〈試練〉
HP減少数 : 32 (+16) / 1日
HP回復方法 : 女の子と会話する(1会話につき1HP回復)
HP減少時間 : 9時30分から16時30分まで、計8回。1時間につき4HP(+2)減少
但し、平日のみ
「なんですか、コレ? 全くもって予想通りじゃないですか! 無理です、 絶対に無理ですから。1日に32回も女子と話せる男子なんて、地球上に存在しませんよ。高校生カップルが1日デートした際の会話数は、平均30トークだって言われてますから!」
「なによ、その変な単位。それに、そのデータ信頼出来るの?」
「出来ますよ! なんたって俺調べなんですから!」
「……アンタ、フザケてるの?」
「お願いしますぅぅぅーーー、なんとかして下さいぃぃぃーーー!」
俺は涙ながらに懇願する。
だって仕方ないじゃないか。
涙が止まらないんですもの。
「ちょっとやめてよ。なんだか私がアンタに意地悪してるみたいじゃないの」
「自覚ないんですかぁぁぁーーー!?」
「あのねえ…… いいこと、よく聞きなさい。今日、アンタはたった半日でHPを20以上稼いだのよ? 今のアンタなら、1日に32回女子と喋ることぐらい楽勝よ」
「今日はたまたまなんですぅぅぅーーー、調子に乗ってスミマセンでしたぁぁぁーーー!」
「ああもう、うっとうしい! わかったわよ、まったく…… レベルアップの度に、そんな顔されたんじゃたまったもんじゃないわ」
「で、では、1日の消費HPを32から16へ戻していただけるのですか?」
「いいえ。1日の消費HPの上限は、32までにしておいてあげるわ」
「と言いますと?」
「次にレベルアップしても、1日の消費HPは32のままってこと。そんでもって、新しいスキルだけあげるって言ってんの。どうよ、ありがたすぎて涙が出るんじゃない?」
「そこをなんとかもう一声!」
「女神相手に値切り交渉してんじゃないわよ! いいこと? アンタはもっと自信を持ちなさい」
「自信ですか?」
「そう、自信よ。アンタは十分やれる子になったわ。アンタにとって女子と1日に18回話すことなんて、もう全く難しい課題じゃなくなったの。こんなのはもう試練でもなんでもないわ」
「……そうなんでしょうか」
「だから今後は更に女子とのトークに精進して、安心してレベルアップを目指しなさい。次にレベルアップした時、またそんなシケた顔してたら、消費HPを1億にするからね!」
そう言い残した女神様は、またいつものようにスッと姿を消してしまった。
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