第15話 先祖代々の忠義
純也から九条さんの印象を聞かれた俺は、改めて彼女について想いを巡らせた。
「うーん…… 九条さんは確かに美人だと思うけど…… ほら、九条さんはキャラがいいから、あんまり緊張しないんだよね」
そうなのだ。
九条さんと話す時は、不思議なことに高野さんや優木さんと話す時より緊張しないのだ。
「…………へえ。カンタは本当に変わってるな」
そう言って、純也は俺の顔をマジマジと見つめた。
どうやら純也は俺のことをとにかく誤解しているようだ。
まあ、俺が女神様からの命をかけた試練に臨んでいるなんて知らないのだから、これは仕方のないことなんだけど。
俺は女神様関連のことは伏せた上で、今の気持ちを素直に言葉にする。
「あのさあ、高柳、じゃなくて、純也は勘違いしてるかも知れないけど、俺は別に美人を選んで話しかけてる訳じゃないからね。俺は人と話すのが苦手で…… 特に女子と話すのが苦手だから、高校に入ったらもうちょっと頑張っていろんな人に喋りかけようって思ってたんだ」
決してウソをついている訳ではない。
女神様の登場以降、なんだかウヤムヤになってしまったけど、そんな気持ちを持って俺は入学式に臨んだのだ。
でもまあ、結局のところ、誰とも話が出来ないまま、入学式が終わっちゃったんだけど……
「それから、あの三人は性格が良いんだよ。向こうの方から俺なんかに声をかけてくれたんだから」
まあ、九条さんだけは、ちょっと特殊な事情で興味を持たれたんだけど。
純也は『へー、そうなんだ』とつぶやいた後、意外なことを話し出した。
「俺はてっきり、ショック療法的にカワイイ子を選んで話しかけてるのかと思ってたよ。ほら、カワイイ子と普通に話せるようになれば、一般的な女子なんて、ラクショーで話せるだろ? 頑張ったらそのへんの女子ひとりぐらい、オトセるんじゃないか?」
「なんだよ、それ。でもそれって、『やっぱりお前は美人とは釣り合わないから、一般的な女子と仲良くなれ』って言ってるようにも聞こえるけど?」
「正直言って、カンタがあの3人のうちの誰かと付き合えたら奇跡だな」
「正直に言い過ぎだよ……」
俺がそう言うと、純也は『悪い悪い』と言いながら、声を上げて笑った。
それを見た俺も、純也につられて大笑いした。
あれ、ちょっと待って欲しい。
これってもしかして、俺は今、『恋バナ』ってヤツをしてるのか?
こんなの青春ドラマでしか見たことなかったぞ?
俺今、青春してるよ。
さて、純也と少し打ち解けてきたと思った俺は、今度は自分から純也に質問してみることにした。
「あのさあ、九条さんも純也も、よく『闇の世界』って言うよね。『めがふら』の中だと、別に闇がどうのこうのって話はないと思うんだけど」
純也は、『全く、カンタは細えな』と言いながらも、ちゃんと説明してくれるようだ。
「いいか? 『闇の世界』っていうのは、『めがふら』が出版される以前から薫子が考えてた『設定』なんだ。最近『めがふら』にハマったアイツは、今まで自分が考えてきた『闇の世界』の設定を、『めがふら』の世界観に融合させたんだよ」
うーん…… しかしラノベ好きの俺としては、どうしても違和感を感じるんだよな。
「でも、『闇の世界』の住人が、『聖フランチェシカ隊』の隊員って、なんだかおかしな設定だと思うんだけどな」
「まあ、そこは多めに見てやってくれよ。薫子が楽しそうなんだからさ、なあ頼むよ」
そう言って、純也は冗談っぽく俺に向かって両手を合わせた。
まあ、そこまでやられたら、俺も受け入れざるを得ないよな。
「わかったよ。俺もその設定に合わせることにするよ。それにしても、純也にとって九条さんは本当に大切な存在なんだね。ねえ、ひょっとして二人は付き合ってるの?」
俺にとっては、たわいもない質問のつもりだったが、純也は、
「そんな訳ないだろ」
と言いながら、なんとも言えない微妙な笑いを浮かべた。
「アイツは九条財閥のご令嬢なんだ。アイツん
「えっと、それって…… 華族?」
「なんだそれ? カンタはまだ、ポツダム宣言を受諾してないのか? そんなもん、とっくに解体されただろ? でもまあ…… 元は華族だったのかな。どこかの公家だか殿様だかの末裔らしいけど」
「じゃあ、今日一緒だった川崎さんも、九条さんとは親つながりの知り合いって感じなのかな?」
「アイツの家は、先祖代々九条家に仕えてきた家柄だそうだ。両親と祖父母から『命に代えても、薫子お嬢様をお守りせよ』って言われてるらしいぜ」
なるほど、よくわかったよ。
先祖代々の忠義を捨ててでも、闇のミサには参加したくなかったんだな。
「そう言えば、カンタは普段の薫子と話したことがないんだっけ」
「普段の九条さん?」
「そう。アイツ、家とか学校だと、『わたくし、九条薫子と申しますの。気軽にお声かけ下さいましね』みたいな喋り方なんだぜ?」
「全然、気軽に喋れそうにないや……」
高野さんや優木さんと喋る以上に緊張しそうだ。
「ふっ、だよな。アイツなりに、毎日気を遣って生きてるんだと思うぜ。だからきっと、闇の世界の住人になってる時だけは、自由を感じることが出来るんじゃないかな」
「なるほど…… だから純也は九条さんの中二趣味に付き合ってるんだね。純也は九条さんのことが、本当に好きなんだ」
「恋愛対象って訳じゃないんだけど、なんて言うか…… そうだな、妹みたいな感じかな」
本当にそうなのだろうか?
純也の表情を見ていると、そうでもない気がするんだけど……
でも純也がそう言うんだから、今はそういうことにしておこう。
「でもさあ、だんだん薫子の趣味に付き合ってくれるヤツも少なくなってきたんだよな…… だから、カンタに出会えてきっと嬉しいんだと思うぞ。さっきだって、大喜びしてたからな」
「でも俺、
「やっぱりカンタは頼もしいヤツだよ。じゃあこれからも、薫子…… じゃないや、サンクチュアリ・エインヘイリアルのこと、よろしくな!」
「ああ! まずは今晩中に、その言いにくい
笑顔でそう言った俺に、純也もまた笑顔で応えてくれた。
「頼りにしてるぜ。それから、お前の脱陰キャ脱出作戦については、俺も協力してやるからな!」
「え? い、いや、そっちの方がボチボチとやっていければと思っておりますので、お気遣いなく……」
本当に、お気遣いいただかなくても大丈夫ですからね?
純也の周りにいる、いろんな意味でイケてそうな女子と話すのは、本当に苦手なんですよ?
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