女子と1日に32回会話しないとHPが0になるなんて……〜愛の女神から与えられた迷惑な試練〜
大橋 仰
第1話 お久しぶりです女神様
4月9日(月) 入学式
桜舞う季節。
恋の予感がする小春日和。
新しい友人との出会いに心躍らす入学式。
でも…… それらは俺には無縁のように思われた。
俺の名前は田中貫太
本日高校生になったばかりの、ちょっと内気な15歳。
俺は今、高校での入学式を終え、家路を急いでいる。
期待に胸を膨らませて入学式に臨んだ俺だったが、結局誰とも喋ることが出来ないまま、帰宅する羽目になってしまった。
ま、まあ、友だちは明日作ればいいことだし……
中学時代の友だちに会う予定など皆無な俺は、その後自宅に到着するまで至極静かな下校時間を過ごした。
あれ?
よく考えたら、今日一日、ひと言も喋っていないような……
ま、まあいい。
そう、明日から頑張ればいいのだ。
自分にそう言い聞かせながら、玄関のドアを開けた瞬間——
「どうだった? お誕生会に来てくれるお友だちは見つかった?」
カーチャンが、ハイテンションで飛び出して来た。
そう、実は明日、俺の誕生日なのだ。
「高校生にもなって、お誕生会なんてやらないよ。それに今日は入学式だけなんだから、そんな直ぐに友だちなんて出来るわけないだろ」
俺はちょっと言い訳した。
「そ、そうね、別に母さんは、あんたが小学生の時、我が家で開いたあんたの誕生会に誰一人としてお祝いに来てくれなかったことなんて、全然気にしてないからね!」
「俺の黒歴史を引っ張り出すのやめてくれよ! だいたいあれは母ちゃんが『サプライズバースデーパーティ』なんて考えたからだろ? あまりにもシークレット過ぎて、俺の友だち誰一人として知らなかったんだから、人が来なくて当たり前じゃないか!」
……なんだか、どっと疲れてきた。
今日は早く寝て、明日からの高校生活に備えよう。
♢♢♢♢♢♢
——グオーーーン!
耳障りな音が聞こえたせいで目が覚めた。
目覚ましが鳴ったのかと思い、時間を確認してみると——
時刻は午前0時。
目覚ましのタイマーを間違えてセットしたのかな?
そうんなことを考えながらアラームをオフにし、もう一度眠りにつこうと思ったその時——
「うわっ! ま、
電気も付けていないのに、突然、部屋の中が明るくなった。
寝ぼけ
「お誕生日、おめでとう!!!」
そう言って、俺に笑顔を向ける女性がいた。
何だろう、この女の人、すごく美人なんですけど……
白いドレスのような服を着て、なんだか女神様みたいだ…… って、あれ?え、女神様ってなんだ?
なんで俺、女神様みたいだなんて思ったんだろう…………
あっ!
「あああっっっ!!! 思い出した! あなたは…… あなたは女神様じゃないですか!!!」
驚いた俺は、思わず叫んでしまった。
「……うるさいわね。静かにしなさいよ、近所迷惑でしょ。あんまり大きな家じゃないんだから、気をつけなさいよね」
「……家が小さくて悪かったですね」
「家の大きさはさて置き…… どうやら思い出したって顔ね」
フフフ、と笑いながら、女神様は俺にそう問いかけた。
「…………そうだ。俺の名前はカンタス。ファンタスティア帝国の臣民のカンタスだ。俺は16歳の誕生日に魔法を授けてもらうため、帝都にある教会に行ったんだ」
ファンタスティアとは、『魔法』や『武技』などのスキルが、日常的に当たり前のように使われている世界である。
その世界の住人は16歳になると、教会で女神様からスキル授けてもらうことが出来たのだ。
「その通りよ、カンタス。スキルを授かりに教会へ向かっていたあなたは、嬉しさのあまりハシャギまくっていたわね。慣れないスキップなんてしたもんだから、足がもつれて派手に横転しちゃって。それであなたは、運悪く近くにあった大岩に頭をぶつけて即死」
「え? あっ、そ、そう言えば……」
「死ぬ間際、浮かれた顔して『俺、魔法が使えるようになったら、あの娘に告白するんだ』とか言っちゃって…… ぷっ、ククク…… アハハハ!!! お、お腹痛い! 思い出すだけでお腹がよじれる!!!」
「ちょ、ちょっと、うるさいですよ!」
「いやぁ、ごめんごめん。家が小さいのにごめんね」
「家の話は置いておきましょうよ……」
この女神様、俺をおちょくって楽しんでいるのか?
「まあいいわ。だんだん思い出して来たようね。あなたは私がスキルを授ける直前に死んじゃったでしょ? かわいそうだから、転生後の世界で16歳になったらスキルをプレゼントしてあげるって、天界に昇天して来たあなたの魂に言ったんだけど…… 覚えてる?」
「そう言えば…… なんだか周りが真っ白な世界で、そんな言葉を聞いたような気が…… あそこって、天界だったんですね」
だんだん記憶が蘇ってきた。
「そうよ、ちゃんと思い出してよね。あなたがあまりにもかわいそうだから、前世の記憶を残したまま地球に転生させてあげたんじゃないの」
「前世の記憶を残すっていっても、俺今、思い出したばかりなんですが……」
「当たり前でしょ」
『なに言ってんだ』みたいな顔をしながら、女神様は話を続ける。
「生まれたばかりの赤ちゃんが、前世から引き継いだ性的な欲望丸出しで、お母さんのオッパイ吸ってどうすんのよ」
「ま、まあ、確かにそうかも知れませんが」
俺はちょっと顔を赤くしながら、そうつぶやいた。
「だから、あなたが16歳の誕生日を迎えたとき、スキルを授けるのと一緒に前世の記憶も蘇らせようって思ったわけ、わかる?」
「まあ、なんとなく」
この女神様、性格にはちょっと難がありそうだけど、律儀に前世の約束を果たしに来たってことだよな。
「いやさあ、私も結構昔から女神やってるけど、あんなにスキルを授かるのを楽しみにしてた人は初めてでさあ。私、本当に心から哀れに思っちゃって。だから、せめて転生後の世界でスキルを授けてあげようかなと思ったわけよ」
一人得意げに、話を展開する女神様。
要するに、俺に同情してくれたって訳だな。
でも、それなら——
「じゃあ、別に元の世界のファンタスティアで、もう一度生まれ変わらせてくれればよかったんじゃないですか?」
「ん? 定員がいっぱいだったの。日本しか空きがなかったの」
淡白な答えだな…… 俺の存在って、そんなものなのか?
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