Live Record
砂石一獄
第1話 カッコ付けの勇者様
“
それから“勇者セイレイ”というアカウントに接続した。すると、見慣れたUIから俺の配信アカウントに繋がっていく。
左耳にインカムを装着。それからマイクの位置を調整し、配信を開始した。
「よぅ、お前ら。配信見てっかよ?今日もさ、勇者セイレイ様のカッコいい配信、見てぇと思うよな?」
視聴者に対する開口一番の挨拶としちゃあ最悪なもんだが、どうせこいつらからしても品行方正な俺というのは解釈違いというものだろう。
すると、期待通り視聴者共の荒っぽい返事が返ってきた。
[よす]
[待ってた]
[はよねろカス]
「はっ、退屈拗らせてるテメーらに付き合ってやってんだ、ちったあ感謝の気持ちを持とうとは思わねぇの?」
[うるせぇぞボケ]
[相も変わらず口悪勇者だな]
[つか勇者って名前つけるのがイタイ]
「は~~~~?おめぇら分かってねぇな。勇者っつーのは希望なの、クソみてーなネット環境ん中で光り輝く希望の種。どーだカッケェだろ」
[中二病拗らせてんな]
[16歳だろお前。勉強しろ]
[こいついっつも配信してんな。テスト勉強はどうしたよ]
……ちっ。痛いところ突いてきやがる。
だが、話題が勉強の方面に向いている以上、無視するわけにもいかねーな。
「はっ、俺の学校はテストという概念を採用してねぇんだよ。つーわけで赤点スレスレとかそんな単語も存在しねぇんだ、分かったか?」
[ということは赤点スレスレか]
[おい馬鹿だぞこの勇者]
[やっぱ駄目じゃねえか!!]
「うーるーせぇっ!今からゲームすんだよ、貴重な道楽の時間を邪魔すんなぁっ!」
[良いから勉強しろ後悔するぞ]
[そうだぞそうだぞ]
[大人になってから「あー勉強しとけばよかったなー」って思うんだ]
[道楽ねー。分かる]
「センセーみたいなこと言いやがんなお前らっ。別に良いだろ、勉強なんてしなくてもっ……っ、ちょっと待て。おい、お前部屋に入ってくるなって言ったよな」
配信の最中、俺の肩を叩いてくる人物がいた。インカムを外し、それから声のした方へと振り返る。
そこにはボブカットに黒髪を揃えた、俺とそう年の変わらない少女が立っていた。活発そうな雰囲気をした彼女は、むくれた表情をして俺に突っかかる。
「お兄、今日は一緒にゲームしてくれるって言ったのにっ、何配信始めちゃってるの!」
「は?
「女の子には女の子の嗜みがあるの!そんなんだからさぁ、
「っ、は……
幼馴染の名前が出たことに思わず突っかかると、結衣はニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべた。完全に優位を感じ取っている表情だ。
「だってこの間だって、勉強教えてもらってたじゃん。先輩言ってたよ?あんのクソバカは無駄に要領良いからタチ悪い……って」
「っ、はああああああ!?!?もう良いから出てけ、ほら!あっちいけっ、しっしっ!」
「へいへーいっ。じゃ、お兄。配信終わったら構ってよ」
「あ、と、で、な!馬鹿野郎がっ!」
顔から火が出そうなほど熱くなってるのを誤魔化すようにそう叫ぶと、結衣は悪魔のような笑みを浮かべたまま「じゃあねー」と部屋を後にした。
ドアが閉まるのを見届けてから、俺は一息つく。それからインカムを再装着し、配信画面に意識を向けた。
しかし。
[リア充爆ぜろ]
[↑もう死語だぞそれ]
[うらやま]
[妹ちゃんktkr]
[妹ちゃんのスペック詳しく]
「っ、は!?あああああああっ!?」
通話をミュートしたものかと思っていたが、どうやら忘れていたらしい。完全に会話が筒抜けだったようだ。
視聴者の俺をからかうようなコメントが、次から次に流れていく。
クールダウンしたはずなのに、再び顔から火が噴くような思いだった。
それを誤魔化すように、再び荒い口調で視聴者に噛みつく。
「べっ、別にどーでもいいだろっ、そんなの!ほらっ、ゲームするぞっ」
[へーい、分かったよ。お、に、い☆]
[↑草]
「っるせええええええっ!!お前ら俺をからかって楽しいかっ!?畜生バカにしやがってっ!!」
[いいリアクションくれるお前が全面的に悪い]
[分かりやすいもんなセイレイ]
「あーもうキレた。俺キレたからな?カッコイイ俺の姿見ても失禁すんなよ」
[おう汚いぞ勇者様]
[不潔だぞ勇者様]
[多分もう挽回できないと思うぞ勇者様]
「お前ら仲良いなこの野郎!?結託でもしてんのか!?」
相も変わらず、俺に対する扱いの酷いコメント欄だ。
俺の言動に対し、こいつらが突っ込む。いつもの流れだが、まあ正直……別に嫌という訳ではない。認めたくはないがな!?
[うーん。私はもっと君のカッコいい姿……見てみたいなあ?]
他愛ない日常が崩壊する足音は、すぐそこまで近づいていた。
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不定期で更新する予定です。
さすがに2作品同時はキャパが……。
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