ゴスロリ貧乏貴族は男の娘!?~女の子達に貢いで貰って悠々自適な神童ライフを謳歌します~
星島新吾
おバカ貴族のプロローグ
第1話 おバカ貴族はゴスロリの美少年
「うむ、今日も完璧な仕上がりだ。世界が嫉妬してしまうな」
チチチッと雀が鳴く爽やかな朝。
朝日で満たされた書斎のデスクで、ヴェズィラーザム子爵家が長子カサル・ヴェズィラーザム───今年十八歳は、手鏡の中の自分にうっとりと見惚れていた。
机の上に広げられているのは、本来あるべき難解な魔導書ではなく、色とりどりの化粧道具。
鏡に映るのは、陽光を反射して輝く金髪にアメジストの瞳にそして白磁の肌を持つ、天使と見紛うばかりの人形顔の美少女──いや、美少女のような少年だ。
「カサル様! 今は自習の時間ですぞ!何をしておられるのですか!」
教育係のバドが、顔を真っ赤にして怒鳴り込んでくる。
カサルはその怒声を優雅に聞き流し、ルージュを引く手を止めない。
「うるさいぞバド。誕生日の朝に、なぜ
カサルの言葉に開いた口が塞がらないバド。
そこにはかつて『神童』と褒めそやされた天才の影は欠片も残されていない。
「いい加減になさいませ! 貴方様がかつて神童と呼ばれたあの日から十余年……どうしてこうも嘆かわしい『うつけ者』に成り下がってしまわれたのですか!」
バドが嘆き、涙をハンカチで拭う。
その隙に、カサルは手元の文章問題に視線を落とした。
そこには『異端核について貴方の考えを述べよ』という、採点者次第で点数が如何様にも変わる何ともつまらない問題が提示されていた。
カサルはあくびを噛み殺しながら、羽ペンの先でチョン、チョンと問題の一部をインクで汚した。
(……魔法使いの変身アイテム、
カサルは一瞬で解を導き出したが、回答欄には『ボク、勉強わかんなーい☆』と可愛らしい文字で書きなぐった。
(これでいい。あほうどもにはコレで十分……)
満点など取れば、また父上が期待してしまう。
次期当主の座など、真面目で不器用なあの弟にくれてやればいいのだ。
兄である自分にできることといえば、せいぜいこうして道化を演じ、弟の
「───サル様! ───カサル様! 聴いておられるのですか!? 」
感慨にふけっていたところをバドに叩き起こされ、彼は不機嫌に眉を顰める。
「聴いているぞ」
「『聴いているぞ 』ではございません! 手が止まっているではありませんか! 早く続きを書いて下さい! ゴホッゴホッ……」
カサルは説教を垂れるバドの顔色が悪いことに気づき、懐から赤い瓶を取り出した。
「そうだバド、秘薬を作ったのだ。舐めて見せよ」
そう言って、赤い瓶をバドに差し出す。
バドは訝し気に見たが、秘薬と言われれば一度は舐めてみたくなるもの。
ペロリと一口舌につけると、ピリッと舌が痺れた。
「毒のようにピリッとしますな」
「毒だからな」
「ブフォ! 」
バドは吹き出し、指を喉に入れて吐こうとしたところをカサルは止めた。
「しばらく舌が痺れる程度の毒だ。気にするな」
カサルは心の中で冷徹に計算しながら、表面上はヘラヘラと笑ってみせる。
「あーあ、それにしても勉強はつまらんな。パーティーはどうした? 水着の踊り子は呼んだか? 我はこの部屋で美女に囲まれて酒池肉林を所望しておるのだが? 」
「なっ……! まだ朝ですよ!? それに旦那様は、貴方様が心を入れ替えるまで部屋から出すなと……!」
「父上も堅苦しいことだ。……まあいい」
カサルは立ち上がると、ゴシックな黒のドレスを翻し、優雅にストレッチを始めた。
「な、何を……?」
「なに、少しばかり下界に散歩に行くだけだ」
「なりませぬ! 扉には鍵が……」
「扉? 誰がそんな所から出ると言った」
カサルはニヤリと笑うと、指先を軽く振るった。
瞬間、窓枠の鍵部分に、カマイタチのような鋭利な風が走る。
金属が切断される甲高い音と共に、窓が風圧で弾け飛んだ。
「なっ……!? 風魔法を!? カサル様なりません!公務以外に魔法を行使するなど!」
驚愕に目を見開く教育係。
カサルは「しまった」という顔をするどころか、不敵な笑みで人差し指を口元に当てた。
「魔法はなにも特別なモノではない。ただの道具だ。……父上には、そう伝えておけ」
革のブーツで窓枠を蹴り、カサルは空へと身を躍らせる。
十八歳の誕生日。
このまま屋敷で腐っているつもりはない。
計算され尽くした「愚者」の仮面を被り、彼は外の世界へと飛び出した。
「カサル様ーーーッ!!」
遠ざかる教育係の悲鳴を背に、カサルは風に乗る。
「さて……まずは街へ繰り出して、退屈を殺す刺激的な出会いでも探すとしようか!」
嵐のようにカサルが去った後。
バドは慣れた手つきで壊された窓を片付けようとして──ふと、慢性的な肩の重みが消えていることに気づいた。
全身に活力がみなぎっている。先ほどの「毒」のおかげだろうか。
バドは苦笑し、空いた窓から爽やかな青空を見上げた。
「……まさか、ですな」
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