第10話「収穫祭の断罪と真実の光」
王国の収穫祭。それは本来、一年で最も華やかで喜びに満ちた祭典のはずだった。しかし今年の収穫祭は、その名前が虚しく響くだけの沈痛な集会と化していた。王宮前の広場に集まった民衆の顔に笑顔はない。あるのは飢えによる疲労と、未来への絶望だけだ。
壇上には、憔悴しきった国王と、その隣に立つアダラート宰相の姿があった。
宰相は、悲痛な表情を浮かべながら民衆に向かって語りかける。
「皆の者、この悲劇は我々の指導者である王家の無能さが招いたものだ!偽りの聖女に惑わされ、国をこの惨状に陥れた王家に、もはやこの国を治める資格はない!」
その言葉は、民衆のくすぶっていた不満の炎に油を注いだ。
「そうだ!」「王家は責任を取れ!」
広場が怒号に包まれる。宰相は満足げに頷くと、次にこう宣言した。
「だが、我々にはまだ希望がある!真の聖女、リリア様こそが、この国を新たな時代へと導いてくださるだろう!」
宰相の合図で、兵士に連れられたリリアが壇上に姿を現す。彼女は青ざめた顔で、何が起きているのか分からないといった様子でただ震えていた。宰相は彼女を新たな国の象徴として担ぎ上げ、クーデターを正当化しようとしていたのだ。
まさに、その時だった。
「異議あり!」
凛として、それでいて雷鳴のように力強い声が広場全体に響き渡った。
民衆が驚いて振り返ると、その視線の先に一人の女性が立っていた。みすぼらしい商人の服装をしているが、その佇まいは何者にも勝る気品と威厳を放っていた。私の、エリアーナ・フォン・ヴァインベルクの登場だ。
私の隣には、カイが静かに控えている。彼の背には大きな麻袋。
「な、貴様は……エリアーナ・ヴァインベルク!なぜここに!」
壇上の宰相が、驚愕に目を見開く。ユリウスもまた、信じられないという顔で私を見ていた。
私は民衆をかき分け、まっすぐ壇上へと歩みを進める。
「アダラート宰相。あなたが語る希望は偽りです。そして、あなたが語る絶望は全てあなた自身が作り出したものなのですから」
私はカイに合図し、彼が麻袋を逆さにする。中からこぼれ落ちたのは、黄金色に輝く小麦の穂と土の匂いがする、瑞々しく見るからに健康そうな野菜の数々だ。
飢えた民衆から、ごくりと喉を鳴らす音が聞こえた。
「これは、我がヴァインベルク領で今年収穫された作物です。魔法など使っていません。土を愛し、手間をかけ自然の摂理に従って育てた、本物の恵みです」
私は、その作物を一つ手に取り高く掲げた。
「そしてリリア様の聖魔法。その正体は、土地の生命を喰らい尽くす古代の禁術『生命搾取』!国中の土地を不毛に変えたのは、彼女の善意を利用したあなたの邪な計画ではありませんか!」
私は懐から、宰相と隣国の密約書を叩きつけるように壇上に広げた。
「宰相は、この国を食糧危機で混乱させ隣国に売り渡そうと企んでいたのです!全ての悲劇は、この男の野心から始まっています!」
揺るぎない証拠と、私の言葉。そして目の前にある本物の収穫物。
民衆は、どちらが真実を語っているのかを瞬時に理解した。騙されていた。利用されていた。その怒りが、今度は一斉にアダラート宰相へと向かう。
「なんだと……!」「俺たちを騙していたのか!」「国賊め!」
真実の光は、何よりも雄弁に黒幕の正体を暴き出した。広場は、新たな、そして正当な怒りの声に満たされていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。