第28話 Other Side 配信裏
「配信開始だよー。」
翔様の配信が始まる。ヨコちゃんの作った蓋絵が表示され期待感にあふれるコメントが流れていく。
翔様は早々に蓋を開けてアバターを画面に映す。
まぁ本当はもう少し粘った方が良いけど、この辺は追々。翔様のアバターは1日で用意されたとは思えないほど綺麗で、翔様の特徴をよく表している。こちらでは配信画面とは別に翔様の前に表示されている画面、左画面の編集用画面、それから翔様の様子を映し出す画面が用意されている。
「翔君楽しそうねぇ。」
「だねー。2回目の配信で既に緊張を制してるし、配信者向けの性格してるよー。」
えーちゃんは翔様の様子にご機嫌だねー。
「リーダー。AIで弾いてるコメントの中に結構ヤバいのも混じってるっすね。かなり直接的な攻撃性、もしくは性欲に支配された
「ふむ、YourTuneのコメントの規約的にアウトではないのか?」
「今の時代じゃあそんなの合って無いようなもんすよ。」
”女性が強くなり始めて”こちら、女性は精神的な弱さも薄れ、また性的な内容に関しては抑えるべき人間がほぼいない状態。
この手の配信サイトは殺害予告レベルの内容でもない限り基本的に運営側で違反とみなすことは無い。
そもそも男性がYourTuneを利用すること自体が想定してない感じなんだよねー。
実際過激なコンテンツも多いYourTuneはかろうじてフィルターこそあるものの、男性の利用者はSyo様が活動されるまでほぼ無かったといっても良いレベルだった。
「西条さん。しっかりお願いねぇ。」
「は、はいっす!!」
おぉこわぁ。まぁ、こちらでは落としているコメントも見れているが、親としてこの内容は正直目を覆いたくなるようなものだ。特に男性の親ともなれば。
特に男かどうか疑っての攻撃的なコメントは親どうこう以前に男性に見せるのは男性保護官としてありえないと言わざるを得ないレベル。えーちゃんの発言に気を引き締めないとね。
「翔様ウチ等の事褒めてくれてんじゃん。うれぴー。」
「こら、集中しろ。」
「分かってますってー。お、丁度生に変えるみたいだねー。さっちん気を付けて。」
「了解っす。」
今…。変わった。……わーお。
「これは…凄いな。」
思った以上に劇的だった。さっちんがAI作って無かったら完全に間に合ってなかっただろうね。落としている内容は女性同士の会話でももう少し慎んだら?って内容とか、スルーされたコメントもほとんどは言葉になっていないような内容だ。
「これ…。ちょっと予定変えた方が良いね。」
「どうするつもりだ?」
「こうしちゃう…。よしっと。」
左画面を編集し、翔様に提案してみる。内容は”皆が良い子で楽しい配信が出来たらもう一回見せて、あ・げ・る♡って言ってあげてー。ダメだったらそのまま進めてー。”と言うもの。
「お、おい宇角!なんてことをさせるつもりだ!」
「あらぁ、うずみんは”はが恋”よく読むのぉ?」
「読みますよぉ。リーダー、これネタですし、理由もちゃんとあるんで、一旦許してください。翔様が嫌なら無理にやらせる気も無いですしー。」
そんな言い合いをしているうちに翔様が対応してくださる。いやー、さっすが翔様。セリフはちょっと違うけど、リスナーに十分意図が分かる範囲で伝えられたねー。
そこからはコメントの勢いが一段と早くなり始める。…ヤバいコメントの割合…めっちゃ増えてるねー…。
「おい…。」
「…。」
すっと左画面に申し訳なさから『ごめん』と打ち込む。いや、私の罪悪感は一旦無視!『とりま無視して進めてー。』と打ち込む。コメントも少しづつ落ち着きを取り戻してはいく。
「宇角、これが狙いとでも?」
「いやー、あはは…。」
「でも、攻撃的なコメントは無くなったわねぇ。」
えーちゃんは良く見てるなー。
「あぁ、男性と疑うコメントの抑制が目的っすか。」
「はぁ、その”はが恋”とか言うのが関係しているのか?」
「まぁそうだねー。古のネット文化で一世を風靡した作品を悪魔合体させた妄想恋愛漫画なんだけどさー。ネット民はこの漫画をネタにしてお祭り騒ぎするのが好きなのよー。」
コメントの流れが速すぎてウチ等の力だけでコメントを制御するのは無理。コメントの流れを作るのは配信者の一挙手一投足によって一気に決まる者なのだ。
こればっかりは配信者として翔様に頼らざるを得ないところ。
そこから質問をいくつか質疑応答を繰り返し、タグが少しあれな名前になったところで…。
「ファンネームが雌犬になりそうだが…?」
「…。さ、さっちん。ダミーコメント。ミーナの名前でおしてー…。」
「りょ、了解っす…。」
まぁ、多少ノリが長引くことは想定していた。だが、男性かもしれない配信者に対して明けすぎでしょ!もうちょっと慎みなさいよー…。
「な、何とかミーナで決まった見たいっすね。でもこれは…翔様に”はが恋”を読ませるわけにはいかないっすね…。」
「け、検閲で何とか…。」
「うずみん?」
「ひゃい!?」
「必要以上の検閲は無しよぉ?翔君がのびのび育てる下地として、縛るつもりないもの。」
あー、えーちゃんは本当に翔様に対して良く考えている…。子供の知識欲を制限することは成長の幅を狭めることになりかねない。
分かってはいるんですよー…。
「翔君がもし見つけて悲しんだら…。ふふ、配信に戻りましょうか。」
あぁ、どうなるんでしょうね…。えーちゃんは優しいから恩情はある…と思いたい。
「骨は拾ってやるからな。」
「リーダーぁ。殺さないでー。」
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配信後反省会では翔様にも理解を得られて一安心。コラボに関してもやる気のようだ。ほんとに翔様は活動的ですごいねー。
さて、こちらもこちらで反省会。
「うーん。良い感じだけど、ちょっと動きが無さ過ぎたかなー。」
「動き?確かに寝転んでいるからアバターはそこまで動かないな。」
「あー、それも必要だねー。でも今回の配信でいう動きは撮れ高のこと。基本的にはアバターの体での質疑応答。生の体を挟むことでの驚きこそあったけど、それもノリとしての流れを生んだだけ。毎回必要とは言わないけど、撮れ高を生まないと見たいと思ってもらえないし、翔様も飽きてしまうかもしれない。」
翔様には自分が楽しいことを優先するように言ったが、それは翔様が配信で気にするべきことで、台本や環境を作るウチ達は違う。翔様に他の男性の心のケアという大役を押し付けているわけだから、そのサポートの為に出来る限りのことをするのは当然。
「そっすねー。基本的には配信者の感情が大きく動いているところとかが撮れ高になるっすかね。ホラー配信でビビりまくって叫んでいるところとか。」
「翔様を殺すつもりか。」
「リーダーの言う通り、それは無理だねー。」
翔様はかなり精神的にもお強い男性ではあるが、普通ホラーゲームなど男性にやらせたら、下手したらジャンプスケア(脅かし要素)で心停止もあり得る。
「翔様は普段穏やかに話されるが、西条に無茶な頼みごとをしたときはかなり感情を出されていたよな?」
「あー、そう言えばそうっすね。ネタとはいえ、感情的に任せて勢いをつけている感じだったっす。」
「ふーむ。」
ネタの勢いで、感情を表に出して話していた…。ねぇ。
「そう言えば翔様って何か好きな作品とかあるのかなー?」
「ん?いきなりっすね?」
「いや、そういうネタとかノリって、多くの場合は漫画やアニメからのインプットがあってそこに本人のユーモアが混ざることで生まれるものでしょ?だったらインプットがほぼ無い今の翔様はインプットを優先させるべきでは?って思って…。」
インプットは時間のかかる行為だ。配信で疲れ、運動も追加される。翔様に負担をかけずにインプットする方法…。
「次の配信、同時視聴とか面白いかも…?」
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