第4章 翔くんの配信計画
第18話 勉強会やろう!
西条さんに色々と押し付けたけど、そこはまぁノリでしかなく、近藤さんもちゃんと仕事は割り振りをしてくれた。西条さんはモデレーターとコメント抽出システムの開発。
コメントとSNSでの発言誘導には人数が必要ということで、全メンバー+バックアップの人たちも巻き込んで当たる形になった。
そして、僕が頼んだ配信のお勉強についてだけど…。
「こちらに関しては
「あぁ、じゃあその宇角さん?で良いよ。」
「その、宇角は西条以上に馴れ馴れしいといいますか…よく言えば壁を作らず、相手の懐に入るのが上手く、悪く言えば上下関係を無視した言動が目立つ人物でして…。」
なるほど?じゃあ大歓迎じゃん。まさに配信において視聴者の心を掴む術の勉強をさせてくれそう!
「それは心強いね!よろしくお願いします!」
「…はい。承知しました…。」
なんか近藤さんが凄く諦めたような顔をしている。うーん、見たことない女性に会わせるのを心配してくれてたのかな?いやいや、女性恐怖症でも会話することに関しては全然問題ないからね?全く失礼しちゃうね!
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「やっほー。かっちゃん。宇角参上したよー。」
「…こちらが
おぉ…。何ていうか…。すごいギャル!!
スーツは上着をボタンを閉めずに羽織り、中のYシャツはうっすらと下のキャミソールっぽいのが透けてるし、足元はみんな革靴だったのにスニーカーっぽいの履いてる…。髪は染めていて金髪、少し落ちてきているのか根本辺りは茶色が見えてる。良いのそれ?男性保護法とか、男性保護官さんの仕事は分かんないけど結構アウトな見た目…。近藤さん、なんだかんだ西条さんの事と言い、仕事がちゃんとこなせていたら優しいのかな…。それに付け入ってギリギリ攻めてる気がする…。
あと、なんかすごい若いね…!楓さんより若く見えるんだけど、もしかしなくても相当優秀なんだろうね…。
いやぁえちちな人員がそろっていて、男性保護官さんは中々けしからんなぁ!
「えっとー。先にかっちゃんに確認しておきたいんだけど、本当にウチで良かった?こんなだし、ウチは敬語とか無理だよ?」
「え、うん。良いよ。よろしくね!」
「さっすがかっちゃん!ほらリーダー大丈夫だよー。あ、かっちゃんそっち座っていい?」
今は居住区画のダイニングみたいなところの入り口にいたのだけど、僕が座るソファーの方を指さしている。
「もちろん。」
「ありがとー。」
そう言って俺の左隣に座る。…いやいやいやいや。対面にもソファーあるし、左右にも椅子有るんだよ?横に座らないでも!あ、でも適度に距離開けて座ってくれてる。
「かっちゃん。確認だけど私が教えるのは配信で視聴者を引き込む方法で合ってる?」
「あ、う、うん。」
や、ヤバい。この距離で初めての人と話すのちょっと緊張するかも…!お、お胸もやっぱり近藤さん並みに大きいし気になっちゃうし。
そんなことを思っていると胸ポケットからペンを取り出す宇角さん。
「じゃあ口頭で伝えてもあれだし、ちょっと紙に書いてみようかな。かっちゃんはそれでいい?」
「う、うん。」
ペンを器用にくるくると回しながら訪ねてきて、そっちを見てて特に何も考えず返事しちゃった。でも、考えてみても特に問題のない、というか聞く必要もないような内容なのに細かく確認を取っているようだ。意外と慎重な人なのかな?
返事を受けてメモ帳を取り出しながらもずっとペンをクルクルしている。器用だなぁ。
「じゃあまず目標だけど。こんな感じで良いかな?かっちゃん。」
そういってパッとペン先を出して机に置いたメモにかきかきしていく。おぉ~きれいな文字。あ、猫ちゃんも一緒に書いてくれた!可愛いなぁ。
書き終わったメモ帳はちょっと文字が小さめで俺と宇角さんの間くらいに置かれているけどしっかり見ようと少し顔を寄せて読んでみる。
えーっとなになに。”目指せ一月で登録者1000万人!ガンバローฅ^•ω•^ฅ”って、え?1000万人?きつくないかな…?で、でも目標としてやるならこのくらい大きい目標の方が良いかも…。い、いやでも…。
「かっちゃん。」
「え、なに?っ!!」
お、いつの間にかすごく顔が近くに!でもこれ俺がメモ帳に顔を近づけたからだし、そりゃそうか。宇角さんもちょっと顔を寄せてるけど、距離はしっかり保ってくれてるし…。少し話したからか緊張ももうそんなにしてないかも。
「がんばってみよ?かっちゃん。もちろん頑張りすぎないで良いようにサポートするからさ?それにあくまで目標。立てるだけで良いんだよ。」
「そ、そうだね。」
うん、宇角さんも手伝ってくれるんだし目標は目標だ。頑張り過ぎたらまた倒れちゃうかもだけど、そのためのフォローなんだし、目標として掲げて勉強するのは全然あり…。だよね!
「うん、やってみるよ。」
「はいかちー!」
「はぁ…。」
ほえ?え?
「ごめんごめんかっちゃん。ウチ、リーダーとちょっと賭けをしてたんだー。」
「ちょ!宇角!」
「だーいじょだーいじょ!」
「賭け?」
「うんうん。かっちゃんにこの目標をOKさせられるかどうか。」
まじか!結構頑張って決めたのに!近藤さんも噛んでたの?もう、そういうのやらないまじめな人だと思ってたのに!
「えぇ~。ひどいじゃんか。」
「ごめんって。目標自体はマジだし、サポートもちゃんとするからさ!」
「むぅ~。」
「いやいや、賭けてたのは悪いけど、普通にすごいことだかんね?1000万とか普通にしり込みする数字だし。」
ま、まぁそれはそうだ。実際俺もちょっとしり込みしそうになったし。まぁ宇角さんが後押ししてくれたから…。あれ…、もしかして…。
「ね、ねぇ宇角さん。」
「お、気づいちゃった?あと、名前。うずみんって呼んでねー。」
「え、うずみん?」
「うんうん。うずみんだよー。」
「じゃあここまでのおさらいね。」
え?
「おさらい?」
「そそ、まずは初めのあいさつ。相手がどんな相手か理解したうえで、あいさつし、実際の反応で感触を確かめる。今回かっちゃんはウチの挨拶に少しだけ困惑してた。それはウチの発言というよりは服装回りで困惑してるみたいな視線だったけど、配信だと視線まで分からないから作戦変更。」
お、おう。俺の視線ちゃんとばれてたのか…。それに配信での立ち回りを念頭に置いてやってたの?
「そこからは細かくyesが出しやすい質問を繰り返す。」
あ、それもなんかあるんだ。慎重な人なのかと思ってた。
「これはYesを繰り返すことで、自然と相手に対して警戒心を解かせ、また、提案に対してYesを出しやすくなる下地を作ってたわけよ。それと名前を出来るだけ何度も呼ぶことで自分とのつながりを意識させる。この段階では感情の良し悪しは一旦保留。」
おぉぉ。なにそれ。そんな方法あるの?なんか心理学とかやってる感じで面白いね。
「それから距離感。同じソファーに座ったのは自分の側の人間だと意識させ、警戒を解くため。近くまで行かないようにしていたのは、単純にかっちゃんの病気のことも有るけど、パーソナルスペースを分かりやすくするためと、その後の動作に繋がる伏線。」
あ、それも理由あったんだ。あれビックリしたんだよ!
「この段階でかっちゃんが緊張していることと胸のあたりを見ていることに気づいたから、ペン回しで視線誘導。」
あ、そう言えば緊張してた時にペン回し始めてた。おっぱいから目が外れたかも…。というか緊張してたのがお胸のせいだと思われていたのか…。いやそこまで間違ってないんだけど、意味は違ってそう…。うんうん。良いちちだで。
「はーい。集中しようね?」
「う、うん。」
「メモ帳は二人で見る形になるように配置して書き込み。これは同じ体制で同じものを共有することで仲間意識を付けさせるため。メモ帳をウチとかっちゃんの間に置いたのはそこがパーソナルスペースの境界で、かっちゃんに不快感を与えずメモを渡すため。メモに書かれた猫は警戒心をさらに下げるため、メモを小さく書いたのはかっちゃんからこちらに近づくことで、パーソナルスペースを自分から超えさせて距離を縮めるため。」
ふぁっ!メモ一つでそんなに意味があったの!?!?
え、なにちょっと怖いんですけど。
「そして、目標を読んだ時には警戒心が減り、承諾しやすい下地ができているから、あとは一押し。これをOKするときの心理的なハードルを下げるために、”あくまで目標だから”って逃げ道を用意。」
な、なんてこったい。こんな若さでこの仕事についている理由も、近藤さんがこの服装を怒らない理由も何となくわかってしまう…。
こ、この人。しごできだぁぁぁぁぁ!!
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