第12話 Side 英子 私の日常
東京は
この長ぁい通学路は住宅街から歩くと1時間は掛かる。利便性とか何も考えられてなさそうな小高い丘の上に続くこの坂はそこそこの傾斜があり、歩いている時間以上のきつさがある。
この通学路を歩いて登校する生徒はあまり多くない。大概は送り迎えの車を出してもらう形で登校している。
ヒバリ高校はお嬢様学校なのだ。初授業のとき、生徒が騒がしくしていることに対して先生が『あら?小鳥の囀りが聞こえるわ。』と言ったときは絶句したものだ。
私?お嬢様なわけないじゃん。ヒバリ高校は偏差値を上げるために一般枠もそれなりに広く取っている。まぁ推薦枠は私はお馬鹿ですって言うようなものだと思っているご家庭も多く、お嬢様でも一般枠から入学する生徒がいるから、実際にはそこまで多くないんだけどね。ヒバリ高校という学歴はかなり幅が利くため、倍率も高い。まぁつまり。私、中々優秀なのよ!
「おあよー。えいこー。」
眠たそうな声が聞こえて後ろを振り返れば親友が自転車から降りて近づいてくるところだった。
「おはよ、
彼女は一応推薦組なんだよね。なのに登下校は自転車。徒歩よりも数が少ないレアな通学方法なんだよね。一度気になってどうして自転車で通学しているのか聞いたことがあるんだけど、千里は『うーん、行きはきついけど、帰りに黒塗りの高級車の真横を悠然と走り抜けるの楽しいからかなぁ…。』と言っていた。
千里は馬鹿なのだ…。
「いやぁー、秋の夜長に作業しながら聞くSyo様の歌声はマンコに響いて染みわたりましてなぁ…。」
もう一度言う。千里は馬鹿なのだ。
「こらこら、菊花先生に怒られる前に理性を取り戻しなさい。」
「なぁにを言う。全女は性獣だなんてのは周知の事実。それに寝不足で頭もおまたもゆるゆるなのよぉ~許してよぉ~。」
推薦組はこれと同類と思われるのだからまぁ推薦受けたくないって言うのも分からなくない話…。
「それに菊せんに怒られたことないも~ん。」
「…かぶる猫の厚さだけは素直にすごいと思うよ。」
千里は学校ではかなり清楚っぽいオーラを出すことができる。悔しいが淑女教育を生まれながらに受けているだけあって、言葉遣いも所作も模範的なレベルの淑女を演じていて、私が初めて会ったのは学校の外だったので鳥肌が立ったのを覚えている。
ホントに容姿と所作の綺麗さだけならご令嬢としてどこに出しても恥ずかしくないレベルなのよね…。実際にはどこに出しても恥ずかしいただの痴女なのに…。
「あぁ~。早く新着が欲しいぃ~~。」
「前の動画から2週間くらいかな?そろそろ来そうだよね。」
「まぁ期間が開くことは前にもあったし一メス豚として大人しく待つしかないねぇ~。」
一部の熱狂的なリスナーは、リスナー間で自分たちの事を『メス豚』と呼んでいるらしいけど、その呼称やめた方がいいと思うけどなぁ…。
「お、見えてきたよ~。」
と言い指をさす千里。学校はまだまだ先だけどその言葉の意味を私は知っている。
「加奈!おはよ!」
さぁ刮目してみよ!わが校のさいかわ天使と名高い
真っ白で柔らかな肌、男の子かなってくらい小さくて儚い175cmの体躯、胸はありえないほどすっきりしていて、制服の乳袋は布が余っているのよ!ぷっくり唇はそのお口は何が入るの?と聞きたくなるほど小さく、優しく微笑むように開けられた細いおめめは全校生徒が狂わされる…。
「えいちゃんおはよう。ちさちゃんもおはよう。」
「おはよ~。」
はぁ~、なんて可愛いのかしら…。嫉妬されるのが嫌だから本当は言いたくないのだけど、今回は特別に声を大にして言います。
加奈は私の彼女だよ!!!
「相変わらずお熱い視線ですなぁ~。学校では控えるんだぞぉ英子。」
「くっ、学内では不純交友扱いされる悲しみよ…。」
「ふふ、私はえいちゃんと一緒におしゃべりするだけでも幸せだよ。」
「あぁ~♡加奈ぁ~~♡」
「はいはい、通学路で盛らない。ちゃんと家で処理してきなさ~い。」
下世話な話を先に初めておいて失敬な!
「そう言えばちさちゃんが好きそうな配信の告知がSNSで流れてたよ?」
「あ~。それ見たかも。自称男性のYourTunerが生配信の枠立てたってやつでしょ~?」
「そうそう。」
「なにそれ、100嘘じゃん。」
「まぁ、間違いなくそうなんだけど枠自体は実際あったから、加奈ちゃんみたいな可愛い子が見つかる可能性あるし見る価値はあるよねぇ~。」
「加奈以上に可愛い女とか居ないし。」
「はいはい。」
自称男性と言い切るのはハードルが高い。何故なら体形でほぼバレるからだ。おっぱい潰してるのバレバレの体形で何が男よ。
隠せるギリギリの年齢は8歳くらいまでだろうね、第二次性徴が始まれば隠せない膨らみが出てくるから⋯。
だから男性と言い切っての配信という事は余程身体に自信があるか、首から上しか映さないかの何方かだ。
「まぁ、Syo様の動画が今日配信されなければ、取り敢えず私は覗くつもりだよぉ~。」
「えいちゃんは?今日の19時配信らしいけど。」
「私はパス。今日は気になってた映画がテレビ放送されるし。」
「あ!もしかして『隣の男の子』?」
「そうそう!可愛い女の子が男子だって偽って男の子と友達になるってめちゃめちゃ夢があるよね!加奈も興味があるなら通話しながら一緒に見よ?」
「わぁ、楽しそう!」
「あれかぁ。でも、女性男優さんは可愛いの分かるけど、本物の男が見たいなぁ。」
「Syo様で男性欲求は抑えておきなさい。ストーカーとか強姦とかに走らないでよ?」
「まぁ英子さん、酷い言いがかりね。わたくしがそんなことする筈有りませんわ。」
「ちょ、千里急に⋯。」
「ご機嫌よう国浜さん、雪ヶ埼さん、金剛寺さん。」
「!!」
「御機嫌よう菊花先生。」
び、ビックリしたぁ。車に乗った菊花先生が少し速度を落として手を振りながら通り過ぎていった。
「「ご、ごきげんよう。」」
これ多分あれだ。学校に着いてから呼ばれる奴だ。横では完璧な淑女の所作で小さく手を振る千里。あんたさっきまで猫背で目をしょぼしょぼさせながら猥談してたじゃない!!
「っぶなぁ~。」
「ちさちゃんずるい。」
「何であんなの気づけるのよー⋯。絶対呼ばれる。さっきの挨拶、副音声で『覚えたからな?』って聞こえたんだけど⋯。」
「ひやぁっ。」
「ぶいぶいぃ〜。先生のナンバーは覚えとかないと安心して自転車爆走させられないじゃぁん。」
もう一度言う。千里はずるい馬鹿なのだ。
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