第4話 グッバイ息子
悲しみをぐっと押し殺し、不安そうな笹枝さんに声をかける。
「な…る、ほど。まぁ分かりました。事故では仕方ないですね。残念ではありますが今は生きていたことを喜びます…。」
「翔様は大人ね…。良かったわ。」
そうですよ、大人なんです!前世はこの体よりももうちょっと大人だったんです!
まぁほんのちょっとだけど…。それに前世も今世も”大人”にはもうなれないんだけど…。うぅっ…。
「ま、まぁそれは置いておいて、『翔様』って呼ぶのやめてくださいよ。別に俺はそんな偉い存在でもないですし、名前以外は畏まった喋り方しているわけでもないから違和感ありますし。」
「え?あ、そうね。そういうことなら翔くんと呼ばせてもらうわね。……………。」
「はいよろしくお願いします。……笹枝先生?」
「えっ、あ、あぁ、改めてよろしくね。」
ちょっとぼーっとしていた笹枝先生に声をかけると、慌てたように反応する。
この先生記憶喪失の問診中も独り言しながら考え込んでいたし、考え込む際に集中しすぎちゃうきらいでもあるんだろうか?
まぁお医者様だし色んな可能性を頭の中で検証しているんだろうなぁ。
「そうね、さっきは急なことで過呼吸になっていたけれど、この距離でも問題ないのであれば触診を少ししてみてもいいかしら?」
「!!………は、はい。」
確かにさっきは急に抱き着かれてその結果起こっている感じだった可能性はある。触診くらいなら大丈夫…か?
そう思い、とにかく触診なら邪魔だろうと病院着を脱ごうと手にかけたところで、声がかかる。
「ちょっ、な、なにしてるの!?」
「ふえ?いや、触診されるなら邪魔かと…?」
「だ、大丈夫だから喉とか目の確認が出来れば十分だから…!!」
これはあれか、貞操逆転世界あるある服を脱ぐことに対しての価値観の違い的なやつ。先生も流石に男の子の体を直視するのは恥ずかしいってやつかなぁ。いやぁ愛い愛い。
あれ?でも手術の時とかどちらにしても見るのでは?
まぁ、意識があるかないかとか、切羽詰まった状態だったりとかも関係してるんだろうし、そんなもんか…?
「それじゃあ、触るわね。」
「はい。」
なんてことを考えていたら触診が始まった。
笹枝先生の綺麗な指がのどに当たって、あ、ちょっと冷た……。
……………!!
「こひっ…!こひっ…!こひっ…!」
「ごめんなさい!さっきみたいにこの袋で口と鼻を覆って。ゆっくり落ち着けばいいから。もう触っていないわよ。」
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結局ダメだった。
結果としてちょっと触るだけで冷や汗、瞳孔の散大、軽いけいれんと過呼吸、顔色も変化しているらしく、これ以上試すのさえも負担が大きく危険と判断され、晴れて女性恐怖症と診断された。
そっかぁ、もう女の子と触れ合うことは不可能なのかぁ…。…ぐすん。
その後もいくつか問診を受け、記憶に関しても無事?記憶喪失という診断をいただいた。
ここに関しては変な勘繰りをされなくて良かった…。いやまぁ俺悪くないんだけどさ。この辺りは説明を怠った女神様(諸悪の根源)が悪いわけだし…。
(だーかーらー!!!)
それにしてもこの翔君という人物が死にかけていたことも分かった、焦ってほかの魂を入れるのも百歩譲ってまぁこんなイケメン男女比が偏った世界じゃ世界的損失だろう(他人って感覚強いからイケメンであることを割と受け入れられる)から、分かる。
でも、言っていた”人類絶滅の危機に対して猶予ができる”って何なんだろう?もしこの翔君の精子でたくさんの子供が生める的な意味だったら、もうこの体じゃまともに子を成すことなんて出来なさそうだけど…?
しばらくそんなことを考えているとまた扉から足音が聞こえてくる。
そして扉の前でピタリと音がやむがそこから何も音が聞こえなくなる。
え、なに?病院だから幽霊的なのとかもいる感じ…?こっわ!
「か、翔ちゃん。ママよー。さ、さっきは急に抱き着いたりしてごめんなさい。入ってもいいかしらー。」
どうやら幽霊じゃなかったみたいだ。すごく震えた声で弱弱しく声をかけてくる楓さんの声だ。
多分さっきの問診を通して面会OKとなったのだろう。正直彼女の事は母親としての意識が無い…。無いんだけど、はじめ見た時のやつれ切った顔や今の弱弱しい声を聴くと、俺に非が無くてもものすごい罪悪感に襲われる…。
やっぱり母親っぽいと分かった時点で『お母さん』とでも言ってあげるべきだっただろうか…。
「か、翔ちゃ…。うっ…。ご、ごめ、んなさいまたっ、来るわねー。」
あ、やば!考え込んでたら面会拒否だと思われたか!
「ご、ごめん!大丈夫だよ入ってきて!」
「っ!!あ、あり、がど~。」
そこからずびずびと鼻をかむ音が聞こえる。
も…申し訳ねぇ…(´・ω・`)。
いや、正直きちぃ状況ではあるんだけど、そんなに悲壮感漂わせられるとめちゃきついっす…。翔くんと俺は別の存在って意識が強いし、そんなあかの他人の無事を喜んだり、病状に悲しんだりってされるとこっちもどうした物か困ってしまう。
顔を整え終えたのかゆっくりと扉が開いていく。
さっきも見た悲壮感漂う綺麗な顔をさらにくしゃくしゃにゆがめて入室してきた。
おっほでっか♡…っは!!
い、いかんいかん男の野生が不謹慎を発動してしまった。
しかも相手は母親ぞやめろって俺!
「ここ、座るね。」
そう言って扉の近くに座る楓さん。
そこから一切話しかけてこず、悲しい顔でずっとこちらを見ている…。
え?そのまま何も話さずそこにいるつもりです?き、きっちぃ…。
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