第2話 お前誰だよ…

 ゆっくりと浮上する意識に合わせて目を開く男子、栗原 翔くりはらかける

 周りを見渡せば清潔感のある白いパーテーション、冷たさのあるつるつるした床、いくつものよくわからない線が体に繋がれ、心電図っぽいモニターが置かれている。


 これは病院?俺生まれたのか?でもなして心電図?

 周りをもっとよく見渡そうと体を起こす。


「いってぇ!?」


 途端に訪れた痛みで思わず声が出る。


「あれ?喋れてる?それに上体を起こせた?」


 この体、赤ちゃんじゃない!!

 見た目には10代前半くらいだろうか?いやぁ女神様(仮)も粋なことをしてくれたもんだ。そりゃあ赤ちゃんボデーで生殺し喰らうくらいならいきなり女の子たちとイチャイチャしたいよね!

 いやぁ、それならそうと先に話してくれればよかったのに。まったく残念な女神様(仮)だなぁ☆

(いや!貴方が聞いてなかっただけですからね!?!?)


「あ、あー。うん、ちゃんと声も出せてる。ギリギリ声変わりしてないくらいかな?」


 それにしても、この成長した体、病院というシチュエーション、動いたときの痛み…。

 これは何か大きな病気や事故の拍子に前世の記憶を取り戻した系の異世界転生かぁ。

 そんなことを考えていると遠くから慌ただしい足音が近づいてくる音に気付いた。

 程なく”ガラッ”と大きく音を立てて開かれた扉から女性が3人入ってくる。

 一人はやつれた顔の女性、緩くウェーブのかかった青みのある髪で余所行きの服を着ている。

 一人は3人の中でひと際身長が高く、茶色の短髪で、少しゆとりのあるスーツを着こなしている。

 一人は多分お医者さん、黒髪でストレートの長髪、ニットの上から白衣を羽織っており、眼鏡をかけていてもくっきりと見える目のクマが疲れた感じを出している。

 3人とも大変美人です。ありがとうございます。それにね、何とは言いませんが出るところが出ていて、大変魅力的なお姿。もうね、既にこの世界に感謝してるよ。

 女神様(真)貴方様に最大限の感謝を!!!


「翔ちゃん!?起きたのね!!」


 一般人、多分お母様と思われる女性が先陣を切り、3人とも中に入ってくる。どんどん近づいてきて…………あれ?

 すぐ近くまで来た女性たちはそれはそれはデカかった。

 それはもうお胸とか、お尻とかも大変デカくて、ありがたや~なのだが、それすらも吹き飛ばすような圧が彼女たちにはあった。

 全員180越え確定と思えるデカさ。周りの家具と比べると普通だし、体が変わっているから目測が誤っているのかもしれない。それでも分かるデカさ、なんかすごい圧を感じる…。

 これ身長差ものだったわけですかい?いやまぁそれもありか、何より美人さんでお胸の大きさとか考えるとむしろまだ身長足りないくらいなわけだし、うむうむ、ありだな!!


 多分母親と思われる女性は心配そうにこちらを見ている。多分俺に何かしゃべってもらい、元気であることを確かめたいのだろう。

 後ろの二人も心配そうにこちらを見ている。

 いやぁ、こんなに心配されるのは嬉しいねぇ。仕方ないなぁこの美声を聞かせてあげます…………あれ?

 ”多分母親”?え、俺の記憶にこの女性居ないけど?もちろん他二人も知らないし、えっとぉ?


「お姉さんだれ?」

「っ!?!?!?!?………翔ちゃん!!!」


 声を出したと同時に感情が高ぶったのか涙があふれだし、急に抱き着いてくる。

 おひょひょひょひょ!!お胸が当たっております!いけませんいけませんお客様!素晴らしい柔らか………。

 ……………!?


「こひっ…!こひっ…!こひっ…!こひっ…!こひっ…!こひっ…!」

「翔ちゃん?翔ちゃん!!!」

「いけない!?楓様すぐに翔様からお離れください!!」

「過呼吸よ、そこのビニール袋取って!!」

「っ!はい!」

「翔様このビニール袋を持って鼻と口を覆うように押し当ててください。大丈夫ですよ、安心してください。今は”女性は誰も触っていませんからね”。」

「こひっ…!こひっ…!こひっ…!ふひっ…。ふひゅ…。ふぅひ…。ふぅ…。ふぅー。はぁ、はぁ。」

「安定なさいました。翔様ごめんなさいね、驚かせてしまって。私たちは一度部屋を出るから安心してね。」

「先生!?」

「今はいけません。少しだけ時間をあげてください。」

「……っ!………はい。」


 3人は入ってきた時以上に悲壮な顔をして出ていった。

 今のは…。母親らしき人物に触れられた瞬間、柔らかな感触に喜ぼうとした瞬間に襲った酷い怖気、全身から鳥肌が立ち冷や汗が止まらず、頭の中に”怖い”という感情だけが爆発するように駆け巡るあの感じ…。

 そう、それは言葉にしてしまうなら…。


「この体、女性恐怖症じゃん…。」


 女神様(仮)そりゃないよ。女性恐怖症って…。それにさっきふと思った俺の記憶。

 多分彼女は母親であっている。それなのに俺は彼女、楓さん?を知らなかった。

 痛む体をひねり手鏡を見つける。手に取って自分を見てみると、楓さんとよく似たウェーブしている青みがかった髪、鏡の中の俺は困惑顔で、優しい王子様風のイケメンが映っていた。

 俺はこの顔を始めて見る。何のなじみもない顔は俺の顔だと頭でわかっていても、どこか写真の中の他人を見ているような違和感がある。


「お前誰だよ…。」


 俺は他人の体に転生したらしい。女神様(邪悪)さぁ、なんてことしてんだよ…。

(いやだから!話聞いてなかったの貴方じゃないですか!?!?)

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