百人目はプロポーズ

縞間かおる

「なんだと!!」


 夷隅いすみ家13代当主“嗣治つぐはる”は長女“佐奈さな”の言葉に目を?いた。


 怠惰な雰囲気を漂わせ、佐奈は言葉を繰り返す。


「だからさ~ 私の“百人目”の相手としてすめらぎの御曹司に声を掛けたってだけよ。皇との姻戚関係はお父様が望むところでしょう?」


 その長女の言葉を耳にして次女“妃苺ひめ”の顔は真っ青になり震える唇から言葉が洩れる。


「お姉様……それは光輝みつてる様の事……?」


「決まってるでしょ!あいにくと袖にされたけどね」


「この恥晒しが!!」


 当主の怒号がお屋敷の吹き抜けの天井にまで反響した。


「貴様!! 何という事をしてくれた!!! 貴様のような売女は見るのもおぞましい!! 本当に貴様の母親そのものだな!!!」


 怒鳴りつけられても佐奈は“どこ吹く風”のていで耳を掻く素振りをして一言返す。


「“人”の母親を追い出しておいてよく言うよ。この腐れチ●ポが!」


 由緒ある当主はこの侮蔑の言葉に猛り狂った。


「この下衆が!!売女が!!」

 執事の制止も振り切って佐奈を殴る蹴るして床に転がして行く


 この当主の激高に割って入ったのは妃苺の母である後妻の和花子わかこだ。


 和花子は、よろよろと身を起こした佐奈に、思いっ切り平手打ちを食らわした。


「少しは妃苺の心の痛みを知りなさい!」


「言われなくても!!」

 そう言って口に溜まった血をペッ!と吐き、床に投げ出されたバッグを拾い上げ

「あばよ!」と捨て台詞を残して出ていく佐奈の背に

「お姉様!」と叫ぶ妃苺の声だけが虚しく響いた。

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