未確認日本列島

逆三角形坊や

未確認日本列島

地理学者は理解できなかった。

彼が見ていた世界地図には、日本列島が二つ描かれていたからだ。


その国は、欧州南部の一角に突如として配置されており、もともとその場所にあったはずの国々は、消失したか、日本列島の国境線と噛み合うように再配置されていた。


それは誰かのイタズラや印刷会社の誤表記ではなかった。

なぜなら、地図に記されていた「もう一つの日本」そのものが、現実世界にも出現したからだ。


政府はすぐさま、日本によく似た謎の地域への調査に乗り出した。


不思議なことに、その土地の住民たちは皆、日本人と同じような容姿をしており、

言語や文化様式の多くも、我々の日本のそれと酷似していたのだ。

そして住民たちは口を揃えてこう言った。


「昔からここは日本でしたよ。」


彼らの国には明治政府も江戸幕府も存在しており、まるで辻褄を合わせるかのように、それ以前の歴史記録も、我々の日本と同じ系譜を確かに辿っていた。


ただし、いくつかの地域では明確な相違も見られた。


海に囲まれていない「内陸の日本」では、漁業や水産加工業が発達しておらず、

代わりに土・菌・穀物を活用した微生物発酵産業が、大地の恵みを育てる国家文化として異様な発展を遂げていたのだ。



第二の日本の出現によって世界は混乱したものの、

両国の日本政府による会談が行われ、二つの国は「二カ所に同時存在する異なる日本」として正式に国連に認められた。


こうして、日本は人類史上初となる「双子国家」となったのだ。


遠く離れた日本同士の外交は驚くほど順調に進んだ。

歴史的変遷が似通っていたため文化的接点も多く、経済交流はむしろ盛んになった。

向こう側の日本のソウルフードである「土と微生物を使った発酵料理」も少しずつ輸入され、今では寿司と並ぶ人気食として親しまれている。


人類はようやく、この異常現象を生活の一部として受け入れ始めていた。

本当に、人間の順応力というものはすさまじい。


今では毎日のように、向こうの日本で流行っているアニメキャラのミーム画像が、SNSで飛び交っている。



そんな最中、それは再び起きた。

アメリカ大陸中央部に、イギリスとまったく同じ形状をした国が出現したのだ。


SNSでは、「イギリス」が急上昇ワードにランクインし、海外の取材班が撮影した現地映像も、凄まじい勢いで世界中に拡散された。


映像に映っていた謎の国の国民は、落ち着いた声でこう語っていた。

「ここは昔から、ずっとイギリスでしたよ。」

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