side:ガルド 後悔


 ※ガルド視点


 暗く、冷たい水の底。


 それが、ガルドの意識が存在する場所だった。


 憎悪。嫉妬。焦燥。後悔。


 英雄になるはずだった。


 誰よりも強く、誰からも認められる存在に。


 現実は違った。


 圧倒的な力と才能を持つレオンが、いつも傍にいた。


 努力しても、足掻いても、決して追いつけない絶対的な壁。


 いつしか仲間意識は歪み、レオンに対してドス黒い感情を持ち、それに塗りつぶされていった。


 全てを失った俺が黒い結晶体に取り込まれたのも、全てはあの男を超えるため。


 それなのに、結果はこのザマだ。


 意識は闇に溶け、ただ無限に負の感情を供給し続けるだけの動力源。


 永遠に続く悪夢の中で、ただ「レオン」という存在を呪い続けるだけの、醜い魂の断片。


『ガルドッ! 聞こえるか! 目を覚ませ!』


 その声が聞こえた時、暗闇に波紋が広がった。


 憎い、憎い、憎いはずの声。


 なのに、なぜか懐かしく、胸が締め付けられる。


『お前が憧れた英雄ってのは、こんな化け物のことだったのか!? 違うだろ! お前はただ、誰よりも強くなりたかっただけじゃないか! 仲間を守れる、誇り高い冒険者に!』


 やめろ。俺の心に入るな。


『思い出せ! お前が『暁の剣』で過ごした日々を! こんなくだらない結末のために、お前は……!』


 その言葉が、固く閉ざされた記憶の扉をこじ開けた。


――「すげぇなレオン! またお前の助言で依頼を達成できたぞ!」


――「見てろよガルド! 次の依頼はもっと稼いでやる!」


――「二人とも、仕事の話はそのくらいにして! ほら、酒場の飯が冷めちまうぞ!」


 そうだ。俺たちは、仲間だった。


 ライバルであり、かけがえのない仲間だったはずだ。


 いつからだ? 俺たちは、こんなにも遠く離れてしまったのは。


 後悔の念が、憎悪の黒い泥を洗い流していく。


 その時、闇の底に、温かな光が差し込んできた。


 それは、まるで聖母の慈愛のように優しく、全てを赦すかのような光だった。


『聖なる祈りよ、光となりて、囚われし魂に安らぎを……!』


 レオンの見つけた異才の魔術師リリアとかいうやつの声だ。


 優しい少女の声。


 そして光が、黒い結晶体に囚われた魂をそっと包み込む。


 がんじがらめになっていた憎しみの鎖が、音を立てて砕け散った。


 ああ、そうか。


 俺は、ただ、もう一度、仲間だったあいつと笑い合いたかっただけなのかもしれない。


 英雄になんてなれなくても、ただ、仲間として隣に立ちたかっただけなのかもしれない。


 闇が晴れ、意識が浮上していく。


 最後に、心の底から絞り出した言葉が、光の中に溶けていった。


『ありがとう……レオン。そして……すまなかった。全部俺が弱かったせいだ。そのことに気付かせてくれたことに感謝する』

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