第八章 因縁の決着と新たな旅立ち 05


 黒い結晶体を手をしたガルドの行方を探すため、情報を得ようと俺たちはガルドの行きつけの酒場に来ていた。


 俺が『暁の剣』に所属していた時、ガルドはこの店でよくアリアと一緒に酒を飲んでいたし、雑用のために呼び出されたことも何度もある店だった。


「おい、聞いたか? また『暁の剣』の元メンバーだったやつが殺されたらしいぞ」


「ああ、聞いてる。これで三人目だろ」


「マルコ、ゴードン、そしてアリアだ。特にアリアなんて、パーティー解散後、逃げるように他の街に移ってたのにそこで殺されてた」


「ガルドの仕業じゃないかって話だが――」


「まぁ、解散時のいきさつからして殺してもおかしくないよな。オレも噂で聞いてるくらいだが」


「あいつ、冒険者ギルドに出禁くらってから行方不明だろ。どこに行ったんだろうな」


「さあな。そう言えば、そこの『星影の羅針盤』の連中が探してるらしいが」


 聞こえてくる話が気になり、視線が合った男たちに話しかける。


「その話って本当なのか?」


「そう言えば、あんたは『暁の剣』の元メンバーだったな。マルコは自宅、ゴードンは郊外の娼館、アリアは別パーティーでの依頼中だって話さ。どいつも鋭い爪で切り裂かれたよういに身体ごと引き裂かれてたそうだ」


「それをガルドがやったと?」


「さあな。噂だ。噂。いろいろとあったからな。三人は殺されてもしょうがないって話をしてるやつもいる」


「いろいろとあった?」


「あんたの『星影の羅針盤』が名を挙げたことで、ガルドが焦って失敗しまくって、ついに仲間から見切りを付けられたってことがあってな」


「そうそう、解散だーってなった時、ガルドの財産を根こそぎ仲間たちが叩き売って金に換えたうえ、借金まで押し付けていったってわけさ。おかげで無一文のガルドは冒険者の仕事もできず、物乞いにって」


 そんなことになってたのか……。


 冒険者ギルドに出禁を喰らったのは知ってたが、それ以外は全く知らなかった。


「教えてくれてありがとう。ついでだが、ガルドが立ち寄りそうな場所は知らないか? 俺はここ以外は知らないんだ」


「すまねえな。お前さんと同じく、オレたちもガルドの行方は知らないんだ」


「あ、でも、ここで見かけたら冒険者ギルドに連絡してやるよ。それでいいだろ?」


「すまない。そうしてくれ。俺もあいつに会いたいんだ」


 男たちに酒代の足しにと、小銭を渡してやると、感謝を示して頭を下げてくれた。


 仲間たちのいる元のテーブルに戻ると、エールを飲んでいたセシリアが、吐き捨てるように言う。


「ガルドもガルドなら、『暁の剣』のメンバーもメンバーね。どっちもお互いを利用するだけの関係だったみたいね。レオンは追放されて正解だったわ! 胸糞悪い!」


 彼女の怒りは、まだ収まっていないようだ。


「ですが、少し気になりますわね。『暁の剣』の元メンバーたちが殺された話。異形に変異したガルドさんが復讐して回ったという可能性も。そうだとすると……。次はレオンさんってことも」


 リリアが心配そうに眉をひそめる。


 彼女の言う通り、乞食たちの話では、仲間からも裏切られたガルドの精神状態は危険な兆候を示していたらしい。


「ガルド、仲間を見る目ない。だから、こんな結末になる」


 ミーナがポツリとそう呟いた。


 俺が追放されず、『暁の剣』に残っていたら、ガルドに煙たがられただろうが、こんなことになってなかったかもしれない。


 そう思うと、少し後悔が脳裏によぎった。


 だが、みんなのことを考えて、その後悔を頭の中から振り払う。


「とりあえず、ここにもガルドの情報がないとなると――」


 今後の方針について思案をしていると、酒場の扉が乱雑に開かれ、冒険者ギルドの制服を着た職員が走り込んできた。


 走り込んできた職員の顔色は真っ青に染まっている。


「レ、レオン殿! た、大変です! 遺跡が! 遺跡がっ!」


「遺跡がどうしたんだ?」


「勝手に動き出し始めました! 空に浮かんでしまっています!」


「なんだって!?」


 職員は懐から紙を取り出すと俺に手渡してくる。


「バルガス様よりの緊急依頼です!」


 手渡された紙に書かれていたのは、『緊急依頼:古代遺跡からの魔物の異常発生源の調査および鎮圧』という内容だった。


「魔物の異常発生も起きてるのか?」


「はい、浮かんだ遺跡から次々と黒い皮膚をしたゾンビらしきものが地上に落ちてきており、遺跡の調査に入っていた職員で、噛まれた者は同じように変異するのが確認されております!」


 どうなっているんだ!? 魔物は全て倒したはずなのに……。


 しかもゾンビみたいな魔物なんていなかったはずだ。


 何が起きている!?


 胸騒ぎだけがどんどんと大きくなっていく。


 俺は胸騒ぎを収めようと依頼書に【鑑定スキル】を発動させた。


 すると、そこにはギルドの公式情報にはない、不気味な文字列が浮かび上がった。


――鑑定対象:依頼書「古代遺跡の調査」――

【隠された情報】汚染源は「黒い結晶体」と呼ばれる未知の物質である可能性。接触した生物の負の感情(嫉妬、憎悪、焦燥)を増幅し、異形の怪物へと変貌させる特性を持つ。遺跡深部より、極めて強い怨念と絶望の思念が観測される。

【危険度】Aランク(ただし、汚染源との直接接触により、Sランク以上に跳ね上がる可能性あり)


 黒い結晶体……!? ガルドが持ち去ったはずだが……。


 まさか、ガルドがあの遺跡を動かしているのか!? それに黒い皮膚のゾンビも。


 何よりも俺の心をざわつかせたのは、「負の感情を増幅させる」という特性だった。


 ガルドが、異形に変異したのもこの負の感情のせいなのでは……。


「この依頼、俺たちで受けよう」


「ガルドの捜索は一次中断ってことね。被害が出てるし、しょーがないよね」


「セシリアさんの言う通りです。遺跡から魔物が湧きだしてるとなると、街に押し寄せる前に汚染源を特定して止めないといけません」


「レオン、顔色悪い。どうしたの?」


「たぶん、古代遺跡にガルドがいる。俺の鑑定スキルが、今回の事態に黒い結晶体が関わっていると映し出した。だから、行かなきゃいけない」


 俺の決断に、仲間たちは力強く頷いてくれた。


 俺たちが引き受けなければ、さらに多くの犠牲者が出るかもしれない。


 そして、この事件はガルドが引き起こした可能性が高かった。


 依頼書の裏側に、この事件に対しての俺の推測を殴り書きして、職員の手に押し付ける。


「俺たちはすぐに遺跡に向かう。これをバルガスさんへ届けてくれ」


「は、はい。承りました!」


 職員は来た時と同じように駆け足で走り去ると、俺たちも酒場を後にして、アジトですぐに装備を整え、遺跡のあった場所に急いで向かった。

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