第七章 新たな試練と絆 05


 俺たち『星影の羅針盤』は、万全の準備を整え、ついにギルド史上最高難度と謳われる古代空中都市『陽炎の蜃気楼』へと旅立った。


 出発前、ギルドマスターのバルガスさんをはじめ、多くのギルド職員や顔なじみの冒険者たちが、期待と不安の入り混じった表情で見送ってくれた。


 その重圧を感じながらも、俺の胸には未知への挑戦に対する高揚感が満ちていた。


 最初の難関は、遺跡が存在するという広大なアルザス大砂漠の横断だった。


 灼熱の太陽が容赦なく照りつけ、足元の砂は焼けた鉄板のように熱い。


 一歩進むごとに体力が奪われ、水筒の水は見る見るうちに減っていく。


 時折吹き荒れる砂嵐は視界を奪い、方向感覚を狂わせた。


「レオン、このままじゃ水が持たないわ!  本当にこっちで合ってるの!?」


 砂嵐の中で、セシリアが不安そうな声を上げる。


 彼女の額には玉のような汗が浮かび、自慢の黒髪も砂埃にまみれていた。


 無理もない。


 この過酷な環境は、屈強な剣士である彼女にとっても堪えるだろう。


「大丈夫だ、セシリア。俺の鑑定とミーナのナビゲーションを信じろ。それに、リリアの浄水魔法もある」


 俺は力強く答えたものの、内心では焦りがなかったわけではない。


 ミーナの方向感覚と、俺の鑑定スキルで最適なルートを選んでいるつもりだが、この砂漠はあまりにも広大で、そして不気味なほど静かだったからだ。


 時折、遠くで陽炎が揺らめき、まるで巨大な都市が浮かんでいるかのような蜃気楼が見えるが、近づくとそれは幻のように消え失せる。


「レオンさん、この砂漠……普通の蜃気楼だけではないようですわ。微弱ですが、広範囲に幻術がかけられている痕跡を感知します。おそらく、侵入者を惑わし、消耗させるためのものでしょう」


 リリアが周囲の魔力の流れを探りながら報告する。


 彼女の言う通り、ただの自然現象にしては、あまりにも都合よく俺たちの進路を妨害するような幻影が現れるのだ。


「ミーナ、頼れるか?」

「……ん。こっち。風向きと、太陽の影の角度、それと……地面に残ってる、ほとんど見えないけど、古代の道の痕跡。幻術に惑わされないように、五感を研ぎ澄ませてる」


 ミーナは、時折立ち止まっては地面の砂を指でなぞり、あるいは遠くの岩の形をじっと見つめ、驚くほど正確に進むべき方向を示してくれた。


 彼女の【危険察知Lv.SS】と【影潜(シャドウダイブ)Lv.EX】は、こういう状況でこそ真価を発揮する。


 彼女の研ぎ澄まされた感覚は、俺の鑑定スキルとはまた違った形で、俺たちを導いてくれた。


 数日間、俺たちは砂漠を彷徨い続けた。


 水はリリアの魔法でなんとか補充でき、食糧は大目に持ち込んでいるため問題なかったが、精神的な疲労は徐々に蓄積していく。


 そんな中、俺の鑑定スキルが、ついに明確な反応を示した。


――鑑定対象:前方空間――

【情報】高密度の魔力障壁及び大規模幻術により、物理的・視覚的に隠蔽された領域。特定の条件下でのみ実体化する可能性。微弱な古代文明のエネルギー反応を感知。

【隠された情報】周囲の岩盤に、極めて巧妙に偽装された『門』が存在する。特定の『音階』あるいは『魔力パターン』に反応して開く可能性が高い。


「みんな、ここだ。この先に『陽炎の蜃気楼』がある。だが、強力な魔力障壁と幻術で隠されているらしい。そして、ミーナが予測した通り、おそらくこの近くに隠された入り口があるはずだ」


 俺の言葉に、仲間たちの顔に緊張と期待の色が浮かんだ。


 ここからが本番だ。


 ミーナが、俺の鑑定情報を元に、周囲の岩壁を丹念に調べ始めた。


 太陽の位置、風の流れ、そして彼女の直感。全てを頼りに、彼女は一つの巨大な岩壁の前で足を止めた。


「……ここ。他と比べて、影の落ち方が不自然。それに、微かに風が吸い込まれてる音がする」


 俺もその岩壁を鑑定する。


――鑑定対象:古代の偽装岩壁――

【情報】高度な魔法技術によって自然の岩壁に偽装された門。物理的な破壊はほぼ不可能。特定の古代呪文、あるいは対応する『音叉』のような道具による共鳴音でのみ開錠可能。

【隠された情報】門の周囲には、侵入者を感知する複数の魔法的な罠が設置されている。解除には古代魔法の知識、あるいは極めて高度な罠解除スキルが必要。


「ミーナの言う通りだ。これが入り口に違いない。だが、開けるには特定の呪文か、あるいは音による共鳴が必要らしい。それに、周囲にはかなり厄介な魔法罠が仕掛けられている」


「魔法の罠ですって?  わたくしが解析してみますわ。レオンさん、鑑定で罠の種類や構造を詳しく教えていただけますか?」


 リリアが前に出て、杖を構える。俺は鑑定で得られた情報を逐一彼女に伝え、リリアはその情報と自身の【古代魔法知識Lv.S】を駆使して、次々と罠の解除法を導き出していく。


 セシリアは周囲を警戒し、万が一の奇襲に備えていた。


 数時間にも及ぶ慎重な作業の末、ついにリリアが最後の罠を解除した。

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