第六章 ドブネズミの戦い 05
「……ああ、無事だよ。アジト、見つけた。『影狐』のアジトは、リンドブルムの倉庫街、南地区の第三倉庫。レンガ造りの一番奥の建物だ。内部の構造と、次のターゲットらしき情報もいくつか掴んだ」
魔道具から聞こえてきたミーナの冷静な声に、俺は安堵と称賛の息を漏らした。
やはり、彼女に任せて正解だった。
「本当か!? すごいじゃないか、ミーナ! やっぱり君に任せて正解だった! すぐにセシリアたちと合流して、そっちへ向かう! 無理はするなよ!」
俺が興奮気味にそう伝えた直後だった。
『あら……こんなところに、可愛いネズミが紛れ込んでるじゃない』
魔道具の向こうから、知らない女の声が響いた。
途端に空気が緊張し、俺の背筋に冷たいものが走る。
『ミーナ!? どうした!? サラって誰だ!? 返事をしろ、ミーナ!』
俺の叫びも虚しく、ガサッという雑音と共に通信は一方的に途絶えた。
最悪の事態が頭をよぎる。
サラ……ミーナが最後に呟いた名前。
彼女の過去に関わる、因縁の相手か。
「セシリア! リリア! 大変だ、ミーナが……!」
ミーナを心配して俺に付いてきていた二人に状況を叩きつけるよう説明し、リンドブルムの倉庫街へと全速力で向かった。
道中、俺の頭の中はミーナのことでいっぱいだった。
彼女が抱えていたであろう孤独や自己不信。
それを振り払うための任務だったはずが、まさか最も恐れていた過去のトラウマと直面することになるなんて。
ミーナ、無事でいてくれ……!
リンドブルムの倉庫街に到着すると、そこは不気味なほど静まり返っていた。
俺は【鑑定スキル】を最大まで集中させ、ミーナの痕跡と「影狐」の残党の気配を探る。
微かな血の匂い、新しい戦闘の跡……。
そして、一つの袋小路へと続く、複数の足跡。
嫌な予感が的中した。
袋小路の奥、月明かりに照らされて、ミーナはそこにいた。
数人の盗賊に囲まれ、肩で荒い息をついている。
そのうちの一人が、ひときわ派手な深紅のドレスを纏った女がサラだろう。
ミーナの顔には絶望の色が浮かんでいた。
「ミーナッ!!」
俺たちが駆けつけると同時に、盗賊たちが一斉にこちらを向く。
だが、その数は多く、すぐにミーナの元へたどり着けそうにない。
「レオン……!」
ミーナが驚愕の表情で俺を見た。
その瞳には、諦めと、ほんの少しの安堵が混じっているように見えた。
「ミーナ! 大丈夫か!?」
「ちっ、仲間が来たか。だが、遅かったな。そのドブネズミはもう終わりだ!」
サラが嘲るように言い放つ。その言葉が、俺の怒りに火をつけた。
こんなところで終わらせるものか……!
俺はミーナを鑑定する。
極度の疲労と負傷。
だが、それだけではない。
彼女の魂の奥底から、まるで抑えきれない奔流のように、未知の力が溢れ出そうとしているのを俺の鑑定眼は捉えていた。
――鑑定対象:ミーナ――
【称号】路地裏の影(変化の兆し)
【ステータス】筋力C- 敏捷A(限界突破寸前S) 耐久C 魔力D 幸運B
【スキル】隠密Lv.A(才能S)→影潜(シャドウダイブ)Lv.EX(覚醒寸前)、投擲術Lv.3、罠解除Lv.B+、情報収集Lv.A、危険察知Lv.S(開花)、???(未覚醒)
【状態】極度の疲労(生命力低下)、強い精神的負荷(過去のトラウマとの対峙)、強い意志(仲間への想い、自己存在の証明)、才能覚醒の萌芽(闇との親和性急上昇、影を操る力の発現初期段階)
【本心】もう逃げたくない。仲間の役に立ちたい。自分の力を証明したい。レオンの信頼に応えたい。
【アドバイス】周囲の「影」を意識しろ。それは敵から身を隠すだけの場所ではない。お前自身の一部となり、力となる。恐怖を乗り越え、影と一体となれ。
これだ……! セシリアやリリアと同じ、覚醒の兆候! しかも、ミーナの特性に最も合った、影を操る力……!
彼女のスキル欄に、新たな可能性が明滅している。
「影潜(シャドウダイブ)Lv.EX」、そして「???」。
ミーナの才能は、ただ隠れるだけのものではなかったのだ。
闇そのものを味方につける、真の才能。
「ミーナッ!」
俺は声を張り上げた。
「お前の力はそんなものじゃないはずだ! その程度で諦めるのか!? お前が自分自身を信じなくてどうするんだ!」
俺の言葉に、ミーナの肩がピクリと震える。
「うるさいっ……アタシの何が分かるって言うんだ……!」
弱々しい反論。
だが、その瞳の奥には、まだ消えない闘志の火が燻っていた。
「分かるさ! 俺の鑑定は、お前の魂の輝きを見抜いている! お前はただのドブネズミじゃない! 暗闇を統べる夜の女王になれる存在だ! 周囲の影をよく見ろ、ミーナ! それは敵からお前を隠すだけのものじゃない! お前自身の一部だ! 恐怖を力に変えろ! 影と一体になるんだ! 感じろ、お前ならできる!」
俺の言葉が、彼女の心の奥底に眠っていた何かを揺り動かしたのが分かった。
ミーナの緑色の瞳が、一瞬強く輝いた。
彼女の周囲の影が、まるで生きているかのように蠢き始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます