第三章 星影、最初の煌き 03


 あと一押し……だが、どうやって……?


 俺は必死に鑑定情報を再確認する。


【弱点:音に敏感】


 これだ!


「リリア! 何か大きな音を出す魔法はあるか!? 金属音とか、甲高い音とか!」


「音、ですか? ……ありますわ! 古代魔法の応用で、魔力を共振させて不快な高周波を発生させる『ハウリング・ノート』という実験段階のものが! でも、制御が難しくて、敵味方関係なく影響が出る可能性が……!」


「構わん、やってくれ! セシリアとミーナは耳を塞げ! リリアのは俺が塞ぐ!」


 俺はリリアの耳を強く押さえる。


 リリアが集中し、杖の先に魔力を込めた。


「響き渡れ、不協和音! ハウリング・ノート!」


 キィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!!


 鼓膜を突き破るような、耐え難い金属音が周囲一帯に響き渡った。


「ぐうぅう!」


 俺ですら頭が割れそうになるほどの不快な音だ。


 スケイルハウルは、その音に完全に不意を突かれたようだった。


 巨体をくねらせ、頭を激しく振り、耳のあたりを前足で掻きむしろうとする。


 その動きは明らかに錯乱しており、防御も疎かになっていた。


「今だ、セシリア! 奴の動きが止まった! もう一度、首の傷を狙え!」


 俺の指示に、セシリアが最後の力を振り絞って駆ける。


「任された! これで、終わりよォォォッ!!」


 彼女の剣が、先ほど傷つけたスケイルハウルの首筋に、今度は深く突き刺さった。


 同時にリリアのハウリング・ノートが止む。


 スケイルハウルは、断末魔の咆哮を上げることもなく、巨体を揺らし……そして、ゆっくりと横に倒れ込み、動かなくなった。


 しん、と静まり返った廃墟街。


 俺たちは、肩で息をしながら、倒れた魔獣を見つめていた。


 やった……のか?


「……た、倒した……?」


 セシリアが、へなへなと地面に座り込む。彼女の体力も限界に近いだろう。


 リリアも、魔力を使い果たしたのか、杖を支えにぐったりとしている。


 ミーナは、壁に背を預け、静かに息を整えていた。


 その表情はいつもと変わらないように見えるが、どこか安堵の色が浮かんでいる。


 俺は、震える足でスケイルハウルに近づき、その絶命を鑑定で確認した。


 間違いない。俺たちは、勝ったんだ。


 B級上位の魔獣に、結成されたばかりの俺たちのパーティーが。


 その時、遠巻きに見ていた住民たちから、堰を切ったような歓声が上がった。


「おお……! あのヤバい魔獣が倒されたぞ!」


「あの若い冒険者たちがやったんだ!」


「信じられん……あんな化け物を……!」


 彼らは、恐る恐る、しかし興奮した面持ちでこちらに近づいてくる。


 その目には、驚愕と、そして称賛の色が浮かんでいた。


「レオン……あんたの指示、すごかったわ……。まるで、全部見えてるみたいだった!」


 セシリアが、汗を拭いながら俺を見上げて言った。


 その瞳には、初めて見るような素直な信頼が宿っている。


「レオンさんの鑑定と、的確なご指示があったからこそですわ。わたくしたちだけでは、到底敵わなかったでしょう」


 リリアも、柔らかな笑みを浮かべて頷く。


「……アンタの『眼』、本物だった」


 ミーナの短い言葉が、何よりも俺の胸に響いた。


 俺は、込み上げてくる達成感と、仲間たちへの感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。


 追放された時は、自分のスキルは呪いなんじゃないかとさえ思った。


 だが、今は違う。この力は、仲間たちと共に未来を切り開くための、最高の武器だと自覚した。


 その後ギルドに戻り、スケイルハウルの討伐を報告すると、受付嬢はもちろん、ギルドマスターまでが飛んできて、俺たちを称賛した。


 危険度Cとされていた魔獣が、実はB級上位だったこと、そしてそれを新人同然の俺たちが討伐したことは、ギルド内でも大きな話題となった。


報酬の銀貨30枚に加え、スケイルハウルの素材(硬い鱗や牙は高値で売れた)の買い取り金額も加算され、金貨4枚という予想以上の対価を得て、俺たちの懐は一気に潤った。


 その夜、俺たちは出会った酒場に繰り出し、そこでささやかな祝杯をあげた。


「まさか、最初の依頼でこんな大物を仕留めることになるなんてね。でも、悪くない気分だわ!」


 セシリアは、上機嫌でエールを呷っている。


「わたくしも、自分の魔法がこれほど実践で役立つとは思っていませんでした。レオンさんの情報があれば、まだまだ新しい魔法の可能性を探求できそうですわ」


 リリアは、興奮気味に語る。


「……次は、もっと手強い奴でもいい」


 ミーナの言葉に、俺たちは顔を見合わせて笑った。


 俺たちは確かな手応えと、そして何よりも強い絆を得ることができた。


 窓の外には、俺たちの今後を祝うように、満天の星が輝いている。


 俺は手にしたエールをグッと飲み干し、仲間ともに依頼を達成した喜びを嚙みしめることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る