第3話 ギルドにて
階段を登ると、ギルドの受付あたりが騒がしかった。
「あっ! 君大丈夫だったの? さっき地下の訓練場の方から何か物凄い衝撃が来たけど、何があったの?」
階段から顔を出した私に、一人の女性冒険者が声をかけてくる。同時に、周囲の冒険者たちの視線も集まる。
「それ多分、私の魔法です」
「「「はあっ?!」」」
「いやだって君、魔力『極小』って……」
「魔力『極小』の奴があんな威力の魔法、使えるわけないだろ!」
「そう言われても、事実は事実です」
「君ねぇ、嘘は良くないよぉ」
「嘘じゃ……」
私、なんでこんなことでムキになってるのかしら? 赤の他人に私の魔法が弱いと思われていようといいじゃない。私は冒険者を楽しみにきたんだから。
「……嘘ってことでもいいや」
私は冒険者たちに背を向けて、壁際に寄った。
「おい。まだ話は終わって……」
「そのガキが言っていることは本当だ……俺たちは確かにこの目で見た。ガンズの兄貴をぶっ飛ばした火属性の魔法をな」
階段を上がってきたガンズの仲間が、私に食いかかる男を遮った。そして、ガンズのもう一人の仲間が背負っている気絶したガンズを見て、冒険者たちは息を呑んだ。
「マジかよ……Bランクの──実力だけならAランクにもとどくと言われたあのガンズがボロ負けだと?!」
「凄いわ! ガンズの新人潰しは目に余っていたけれど、実力だけはあったから誰も手出しできなかったのよ。ありがとう!」
「なあキミ! 是非ともうちのパーティーに入ってくれ」
「いいえ、わたしたちのパーティーなんかどう? むさ苦しい男だらけのパーティーなんかより、絶対居心地いいわよ」
「なんだと!」
「なによ!」
睨み合う二人と、その後ろで騒ぐ冒険者たち。
アニメやラノベでよく見たお決まりの展開! ……でも、実際にその中心に立つというのは、思っていたほどいいものじゃないわね。……疲れる。
「『王の鉤爪』のパーティーメンバーがいないうちに勧誘しないと俺たちに勝ち目はない! ルーキー争奪戦、俺たちも参加するぞ」
一人の声とともに、後ろに控えていた冒険者たちも押し寄せてくる。
「なあ、俺のパーティーに入ってくれよ!」
「それよりもわたしたちのパーティーに」
「オレらのパーティーもどうだ?」
「僕たちのパーティーはアットホームな雰囲気で楽しいよー」
私をパーティーに勧誘する冒険者たちが、互いに押し合いながら眼前にまで迫る。
しつこい……いい加減にして欲しい……。
「……一つ、言っておきたいことがあります」
「なんだ? できる限り嬢ちゃんの要望は飲むぜ」
先程まで騒がしかったギルド内が一瞬で静まりかえり、全員が私の言葉を待った。そして私は、ゆっくりと息を吸い、通る声で言い放った。
「私、ソロ希望ですから」
「「「えっ……」」」
冒険中に仲間に気を遣うなんて面倒くさい! ダンジョンとか依頼とか、自分のペースで自由に攻略したいしね。
***
コンコンコンッ。
「ギルドマスター。ルヴィアさんを連れて参りました」
私は今、受付嬢に連れられてギルドマスターがいる執務室の前にきていた。
「入れ」
部屋の中から、低く落ち着いた声が返ってくる。それを聞いて受付嬢は扉を開けた。
「ルヴィアさん。あちらにいるのが王都ギルドのギルドマスター──ボワルグです」
ボワルグと呼ばれたガタイのいい中年の男は、手を差し出した。
「ボワルグだ。よろしく頼む」
「ルヴィアです」
私はボワルグと握手を交わすと、ボワルグに促されるまま、彼と対面のソファに腰を下ろした。
「早速だが本題に入らせてもらう……ルヴィア、お前は魔法を使う時、体外の魔力を使用してないか?」
「はい。それが何か?」
魔力って、自分の中になんてないんだから外のものを使うのが当たり前なんじゃないの?
「えっ! 本当に?!」
あからさまに驚く受付嬢。対してボワルグは両肘をテーブルについてため息を吐いた。
「やはりそうか。魔力量が『極小』だったことといい、報告にあった通りの魔法威力を出せるとすれば、それしかないと思っていた」
「ですがギルマス。体外の魔力を使用できる人なんて、もう何百年も前から確認されていないんですよ!」
「だが、そうとしか考えられん……」
ボワルグは眉間に皺を寄せ、受付嬢は顔に手を当てて首を振った。
「あの、外の魔力以外に使える魔力なんてあるんですか?」
「ほとんどの人は自分の体の中に流れる魔力しか扱えないのよ!」
「そう……ですか」
私が、声を荒げた受付嬢に呆気に取られていると、ボワルグが咳払いをした。
「オホンッ。ルヴィア、何はともあれおまえは合格だ。今日からおまえはCランク冒険者。励むのだそ」
ボワルグはそう言って、名刺サイズの冒険者カードをテーブルの上に差し出した。私はカードを手に取りじっと眺めた。
これが冒険者カード……すごい。私、本当に冒険者になったのね!
「……ヴィア、ルヴィア」
「……あっ、はい。なんですか?」
感傷に浸っていた私を、ボワルグの声が呼び戻す。
「Bランクのガンズに勝った以上、おまえのランクをB……いや、Aランクにしてやりたかったんだが、ギルドの決まりでな。本来最初のランクはFからDランクの間で決めることになっているんだが、なんとか特例でCランクにしたんだ。許してくれ」
「大丈夫ですよ……それより、ダンジョンに潜りたいのですが、どうすれば良いですか?」
「ルヴィアさんのランクであれば、受付でダンジョンに潜ると報告していただければいつでも入れます」
よし、それなら今すぐ行こう!
私はソファから立ち上がり、受付嬢に微笑んだ。
「早速私、ダンジョンに行ってきます」
───────────────
あとがき
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