第9話:初めてのボス戦

「ぐあっ!」

「ああっ!?」


 ロングソードとブロードソードが腕を切り裂き、軸足を回して二つの首を同時に落とした。


「フロイト! ベネガー!」

「このガキが、舐めやがって!」


 武器を持って突撃をかましてくる盗賊たちだったが、雄叫びを上げた次の瞬間には、全員地に伏せていた。

 俺の剣2本が、一瞬の隙も許さず命を奪うからだ。


 右のロングソードで斬り払い、


「ぎゃあ!」


 左のブロードソードで後隙を埋めるように突く。


「ぐえっ!?」


 そして上段からの2本同時攻撃。

 直撃した盗賊は断末魔もあげられず、体が3つに裂けた。


「いたぞ! ここだ!」

「野郎、ぶっ殺してやる!」

「回り込め! 囲って攻撃するんだ!」


 中規模クラスとはいえ、やはり団員数は多い。

 次から次へと、まるでネズミのように湧いてくる。


 だが、剣を振るうたび、悲鳴と血が天を舞う。

 いくら増えたところで、二刀流の前に彼らはなす術がなく、次から次へと倒れていった。


 いつの間にか周囲は静かになっていた。

 俺は近くにいた、まだ息がある男の元へ寄り、切先を向ける。


「ば、化け物め……外の奴らはどうした!?」

「ああ、見張りのことか? 安心しろ、すぐに会わせてやる」

「なっ……こ、こんなガキに殺られたのか、ぐあっ!? ──がはっ」


 最後の1人に刃を突き立てる。

 首を貫かれた男は、糸が切れた人形のように項垂うなだれ、絶命した。


「ちなみに、森で狩りをしていたり、巡回中だった奴らも全員地獄へ送っといたぜ」

「ほう、そりゃ見事だな坊や」


 ぱちぱちぱち。


 乾いた拍手の音と、石造りの廊下を歩くブーツの音が聞こえる。

 振り返ると、奥からスキンヘッドの、邪悪な瞳を携えたな風貌の男が現れた。


 その腰には、血に塗れ、赤みが落ち切っていないなたがぶら下がっている。


「首領のグズフィットだな」

「ご名答。泣く子も黙るグズフィット盗賊団のボスとは、まさに俺様のことよ」


 くっくっく、と怪しげな笑みを浮かべてグズフィットはこちらを見据えてくる。


「派手に暴れたねぇ、天井までぶち破るとは」

「この方が風通しがいいと思ってな。戦ってると暑くなるから、外の風がちょうどいいんだ」

「へっ、じゃあこれから俺様が、死ぬほど体を冷たくしてやるよ」


 ここで、グズフィットのよこしまな目線が、俺の剣たちに注がれた。


「剣を2本……珍しいねぇ〜。俺の可愛い無能どもはこんな変な奴に負けたのか?」

「二刀流と言ってな。我がヴォルフシュテイン家もとい、戦人族に伝わる奥義だ」

「ヴォルフシュテイン? じゃあお前が、あの悪名高きアーサーお坊ちゃんかい」

「だったらどうする?」


 ロングソードは肩にかけ、ブロードソードの剣先を奴に向ける。

 お互い臨戦体制のまま、話を続けた。


 グズフィットは、髭のない顎を触りながら、疑問を口にする。


「一度お前の父ちゃんを見たことがある」

「へえ、それで?」


「そんときは、大剣一本だったな」

「父上と俺は違う。それと、あまり言ってやるな。ああ見えて気にしてるんだ」

「……ほーん、『牙剣』様はその奥義とやらを使えないのかい」


 最強の剣術ビルド『二刀流』。


 世界観上は戦人族が発祥とされているが──実は戦人族の現役戦士でさえ、修得は容易でなかったと伝えられる剣術である。


 なんなら、全体の割合だと修得できなかった戦士の方が多いらしい。


 当たり前だが、剣を2本持って振り回すだけでは真価は発揮されない。

 覚えることは山ほどある。

 考案元の部族ですら修得が難しい剣術、それが『二刀流』である。


(だから最強、故に奥義。ちゃんと動ければ火力は他の追随を許さない)


 アーサーの祖父、伝説の英雄ゲドルフは二刀流の使い手だった。

 それどころか、歴代最強と評されるほどの腕前である。


 一方、その息子にして父であるバルザックは──


「すると、坊やはすごいわけだ。パパができないことを息子はできちゃった、と」

「そうでもない。まだ修行中だからな」


 原作知識とを使って上記の欠点は克服中だが、やはりまだ動きは粗い。


「おいおい、まさか修行の一環として襲ってきたんじゃねえだろうな」

「そのまさかだとしたら──どうする?」


 実際は、グズフィットの裏にあるレアアイテムが目的なのだが……。


「俺の可愛い部下を全員殺しちまったからな──お前を人質にして、領主様から補填金をたっぷり貰うとするか。それとも、そんだけ強いんだ。死んだ部下の代わりをお前がするか? そうすりゃ特別に許してやるよ」


 じりじりと、俺たちは距離を詰めている。


「嫌だと言ったら?」

「試してみるか?」


 ──瞬間、俺たちは互いに向かって駆け出す。


 そして、俺が転生してきてから初めての『ボス戦』が始まった。


 今までの盗賊たちは、武器を抜く前に俺が始末できていたが、やはりボスは違う。


(……早い!)


 俺の初撃は、いつの間にか構えていた鉈でガードされた。


「ふぅ〜、おっかねえ」


 そのまま押し返され、赤い刃を振るってくる。

 俺は攻撃を弾かれたことで体勢を崩しており、このままでは相手の攻撃が当たってしまう。


 あんな鉈で切られたらたまったもんじゃない。

 なので、


「──<衝撃波ブラスト>」

「はっ──」


 直後、俺の体からが解き放たれる。


「ぐあっ!?」


 魔法の衝撃波だ。

 確かに二刀流は最強。

 だが、一芸だけではつまらない。


 使えるものはなんだって使う──あくまでその中心にあるのが『二刀流』だ。


 さて、今度はあちらの体勢が崩れた。

 こちらの番だ。


「ふんっ!」

「っ!!」


 素早く前に出つつ、ロングソードとブロードソードをクロスさせ、解放。

 右の斬撃はグズフィットの左目を潰し、左の斬撃は右の脇腹を斬った。


「て、てめっ!」


 だが、痛みに負けることなく反撃してきたグズフィットだが、続く二刀流の連続攻撃の前に返り討ちにあう。


 右で斬り払い、

 左で突き、

 両で叩き潰す。


「ぐああああっ!?」


 かろうじて避けれてる攻撃もあるが、グズフィットはどんどん後ろへ追いやられていく。

 そして、壁に背が近くなったところで──


「……ぁぁああああ"あ"っ!!」


 火事場の馬鹿力で、デタラメに鉈を振り回してきた。

 しかし、渾身の攻撃を俺は冷静に、ブロードソードで受け止めた。


「……っ!!」


 そして、忘れるな──目の前の相手は、1

 ロングソードでトドメの刺突を放つ。

 刃は腹を貫き、そのまま壁へ到達し、グズフィットをはりつけにした。




「な……なんつう強さだ……」


 初めてのボス戦だったが、案外簡単に終わったな。

 これにて、グズフィット盗賊団、殲滅せんめつ完了である。


「がふっ! く……首取り族の生き残りは、とんだドラ息子を産んだと聞いていたが……」

「そのドラ息子に負けてしまったな?」

「く、くそ……」


 口から血を流しつつ、怨嗟えんさの声を絞り出すグズフィット。

 案外しぶといな。一旦ロングソードはこのまま刺しとくか。


 さーて! ここからは待望のお楽しみタイムだ。


「ま、待て……どこに行く」

「お前たちが隠しているお宝を探しに行くんだよ」

「た、宝……?」


 レアアイテムのことである。

 ここへきた本来の目的だ。


(レアアイテムはなるべく確保しておきたい。今後使えるかもしれないし)


「へ、へへ、そういうことかい」


 すると、突然グズフィットが不適な笑みを浮かべ始めた。


「い、いいぜ坊や、取引しようか」

「取引?」

「ああ。お前が探しているお宝が何かは知らないが、俺のとっておきをやるよ」

「ほう、とっておき、ね」

「そ、そいつをやるから見逃しちゃくれねえか」


 なるほど?


「物によっては、『検討』してやる」

「よ、よしきた。大丈夫だ、坊やが絶対に気に入る物だよ」


 グズフィットは、震える指で奥の部屋にあるカーテンを示す。


「そ、そこに。鍵はかかってないから、吟味してみな」

「つまらん物だったら命はないぞ」


 ところが──ウキウキでカーテンを開けた瞬間、俺は絶句した。


「なっ……」


 そこは牢屋だった。この牢屋を隠すためにカーテンがされてあったようで、


 その中に──1人の、傷ついた少女が裸で横たわっていた。

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