Fifth Crystalline: Black Devil

 点在する七の天使像、その内の六は確実に白き虚無、乾きの骨頂たる水の潤いを寄せ付けぬ水が差し入れられれば即時その集合を解除してしまう天使の型を持つ塩の柱である、残る一つに関してもやはり天使の羽根などその背面に広がる鳥人の証を模した地平に安定する事を知らぬ歪な縮小山脈に相容れる物ではないと言う結論を用意して良いのかも知れぬ。だが、論理と言う条件付けを優先するまでも無く私はそれら一つ一つの口元の微笑、風に靡くその一瞬が氷結された髪の流れ、触る物全てを慈しみで満たしてくれそうな手、太陽を見た瞬間名を月と、花を見た瞬間名を太陽と人を見た瞬間名を睫毛の草原に咲く太陽の様に溌剌として月の様に優美である瞼の蕾を割って顔を出す瑞々しい花とする瞳、そう言った美を物言わずとも語る天使像を天使像たらしめている全てがただただ恋しく、近付きたい、近付いて少しでも永く彼らの美を我が傍に在る物として受け止められる柔らかな時間に埋もれたいと感じてしまっていた、目的とされる天使像の真偽判定及び偽りであった場合の事後対策などはいっそこの感情の波に促されるままにしてしまった方が余程効率の認められる所であろう、私の心の渇きはそれに相応しいだけの冷徹な審美眼を呼び起こしていたのだ、欲望のうねりの前では論理が出来る行動への軌道修正など無きに等しい。

 まず私は花を見た瞬間それを髪に刺そうとして抜いて絶命した天使像の前に来てしまった、それを理解する為にまず五分間程天使像の前で感覚を押し広げなくてはならない、一人分の感覚では物足りない、他人の死に様を理解する為には感覚の器は池から小さな湖の規模を持たなくてはならないのだ。そして十分に感覚の器が広がったらそこにそれが小さな湖となれる様に水が継ぎ足される、赤い生命の水、死に様に彼らが流した苦痛の涙、血の十分量が私の中に入り込んで来る。私はそれに悲鳴を上げる事は許されない、私を包む全体としての感覚の海これは実際私の心であり私が口を広げると言う事は心を飲み込み千切る事に繋がる。落ち着いて、今受け入れた鮮血を元の水仙の聖杯に注ぎ直し、広げた感覚の海を萎ませてその用途を死に様の追体験から天使像の再度探索へと書き換えて私は黒い深海を突き進む。次、花の花弁の枚数を数えていたらいつの間にかその枚数数えが髪に移っていてあまりの枚数の多さに苛立ち髪を抜こうとしたら花弁を抜いてしまって絶命の人、その次、花の蜜の甘さを知りたくなって花に舌を入れたらそれに付着する唾液を花に与えられた水だと勘違いされて乾燥し切って絶命の人、そして次は空を目指して跳ね続けてしまい足を壊して水の運搬能力消失と看做され強制絶命の人。最後のはかなり私の求める死に様に近いものである、私はこの場合で足よりも先に頭が壊れてしまった人を求めている、空を目指して跳ねていたらいつの間にか跳ねる事自体が目的になってしまっていた様な、目的が伴わなければ行動を取る事の出来ない理性と言う鎖に縛られた人間の常識の外側で活動していた人の死に様が欲しいのだ。少し目的に近づけたかの様に思いいい気になってしまった私は油断した、黒の血がその赤黒い口を開いて虎視眈々と私と言う光乏しき海を進む盲目気味の魚を喰らいたがっている事実を一瞬心から捨て去ってしまった。私は、かくして自分から生じた黒い苦痛の名を持つ悪魔と接触した。

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