テーブルに浮かぶ果実

@qpzm2408

単体小説【テーブルに浮かぶ果実】

丸々と膨らむ青っぽい果実が,テーブルの上にぽつんと置かれていた。


窓から日が差し込む。


その光が表面に塗られた油膜を滑りザラつきを溶かしてくれる。


勢い余った光は1点めがけて湾曲に沈み,頭頂の穴に吸い込まれていった。


やがて光は潰れ影となって浮かび出す。


その上に薄茶の茎が伸び上がり,強い目線でこちらを見つめてきた。


ならば,こちらも応えよう。


何故かそう思い果実を手に取った。


掌に立たせるとそれはころころと身体を揺らし,生意気にも逃げようとしている。


肌の青々しさも相まって何処か怯える幼児を思わせた。


…さっきまでの威勢は何処に行ったのやら。


すると何やら湿り気のような物が感じられた。


眉をひそめ,手を凝視する。


そこには“幼児”が漏らしたであろう黒い液が底に溜まりを作っている。


そんな様子が眼前に広がっていたのだ。


その瞬間,歯ごたえがある感触が歯に響いた。


その行為は“幼児”への苛立ちか,それともただの空腹なのか。


それは分からない。


ただ舌に乗ったその実は,爽やかな酸味を広げてくれていた。

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