嘘のオンパレードなのに不思議と心暖まる物語。

 主人公の「俺」は根っからの嘘つきで、人生のほとんどを嘘で構成させてきた人物。

 最初このあらすじを見たときは「いったいどんなクソ野郎なんだ」と思ってしまいましたが、本作を読むとその印象がガラリと180°変わってしまいます。

 ――家族とは何か。絆とは何か。

 そんな太古の昔からの普遍的なテーマを「嘘」という観点から捉え直す作品です。「絆」や「嘘」というのは手垢がつきまくったテーマかもしれませんが、不思議とデジャブを感じさせないのは作者の描写力と構成力の賜物だと思います。

 また、一文あたりの文字数が抑えられているので非常に読みやすかったです。リーダビリティーにも気を遣われているのかなと感じさせられました。

 読了後には自分の人生や家族のことさえも省みさせられる、圧巻の作品でした。

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