あるダンジョン探索者の死体画像
コザクラ
第1話「世界一イケメンな探索者」
1995年――21世紀の下準備をするかのように、世界はダンジョンに包まれた。
人々は冒険と興奮に駆り立てられる。ダンジョンの普及とともに「探索者」は職業と化し、ネット文化の熟成に伴い、その様子を配信する者も現れた。
だが多くの人間は探索もしなければ配信もしない。
その代わり、彼らの燻るダンジョンへの熱は「語る」ことで燃やされてきた。
例えばその恐怖画像のように。
第1話
「世界一イケメンな探索者」
そのワードで検索をかけると、こちらのはやる鼓動をよそに「そいつ」はヒットする。
「うおっ」
血管の走る真っ白な肌。大きくかっ開いた目。歯茎まで見える裂けた口。血だらけの口内。
しかし顔のパーツ全てがコラージュによって切り貼りされたのうな跡がある。
グロ画像としてのショッキングもさながら、その妙な手作り感とアンバランスさがある種の歪な完成度を生み出している。
最初に見たのは2008年頃だったと思う。
当時小学生だった私はエロ画像を貼る掲示板に足繁く訪れており、ウキウキのウキでURLを踏んだところ見事「爆撃」を食らったのだ。哀れ。
その後はびっくりフラッシュや釣り画像などで幾度となく見かけ、夜にはトイレに行けなくなり、ふとした時の瞼の裏にもその顔を浮かばせた。
そんな日々も、大人になってみれば懐かしい思い出ばかりだ。
なんだなんだ、気付けば30歳じゃないか。慣れてしまった。もう古い友人のような感覚さえある。
私は今、オカルト関係のサイトを運営している。
基本的にはリクエスト形式でネット上の都市伝説やロストメディアを調べ上げる。動画のチャンネルもあり、こちらも少しずつ数字を伸ばしている。
同業のサイトやライターは数多存在するが、私はアーカイブや証言を元に真相を探る方針で差別化を図り、人気を博した。
適当に調べただけで「いかがでしたか?」でまとめる程度の記事を書いたことはない。
歩くトラウマブレイカーと呼ばれるその日まで、私は活動を続ける。
さて、このネタを調べて欲しいというリクエストが以前からあり、その声は日に日に増していた。それほどまでにこの画像は有名なのだ。
(世界一イケメンな探索者か……)
出所は自分も気になっている。ぜひとも謎を暴きたいところだが、そう景気良くは行かない。
この画像は一体いつ、どこの誰が作成したものなのかがわかっていない。
まず「あるダンジョン探索者の死体画像」とされているが、うわさの出所は不明で、それを裏付ける証拠もない。
バージョンもいくつか存在し、顔のパーツを別の人物のものに差し替えたバージョンもあれば、24時間以内に友人のメールに送信しないと呪われる、といった文言が貼り付けられたものもある。文面からしてチェーンメール時代のものだろう。
「世界一イケメンな探索者」なる珍妙な名前は唯一、由来がはっきりしている。「こいつを世界一イケメンな探索者にして欲しい」という3chのスレッドだ。
ただし立てられた時期は2005年と相当に古い。スレッドも例の画像をどんどん「イケメン」に加工していく趣旨のため、大きな情報は得られない。
またスレタイや書き込みでも配信者という文脈で語られている辺り、既に「探索者の死体画像」という背景が浸透していたと考えるのが妥当だ。
こういった捜索難易度の高さゆえに調査を控え続けていた。
……のだが、尻込みする理由が山ほどあるからこそ、熱が入る。
逃げ続けていてもこの「イケメン」は私を追いかけ続ける。夜のトイレだろうが、パソコンの中だろうが。
(やる――か)
舐めてもらっては困る。こちとら運営5年選手。その意地が、奴の謎を明かさずにはいられないと叫んでいる。
ふいに現れて何度も驚かせてくれたな。小学生時代のリベンジマッチだ。
世はダンジョン時代。探索は探索でも、私はネットのダンジョンを探索する。
いざ、前人未到の「最下層」へ。
*
【作者より】
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