第二章 ──水の記憶、鏡に映して
ヴァルゼインの導きを受け、
灰の荒野を抜けて、
リュウトの前に広がったのは、
まるで夢のような光景だった。
見渡す限りの蒼。
大地の代わりに、果てなき水面が広がり、
空と水がひとつになって揺らめいている。
「……これが、
“水の王国”……」
彼の足元を透明な水が撫でた。
だがそれは
冷たくもなく、温かくもない――
ただ、静かに彼を迎えるようだった。
遠くに、巨大な水晶の塔がそびえている。
その頂には、淡く光る
“湖の心臓”
が浮かび、
そこから無数の水脈が
世界へと流れ出していた。
まさに、
“水の理”
そのものが形をとったような都。
そして、その中心――
青い光に包まれた神殿の奥に、
彼女はいた。
「ようこそ、記憶なき子よ。」
静かな声が響いた。
その瞬間、
空気が凍るように澄みわたった。
玉座に座る女王。
長い蒼髪が水のように流れ、
瞳は深海を思わせる。
白い衣をまとい、
背後の湖と一体化するように
存在している。
「あなたが……
"あの子"
それに……あなたに残る、その炎の気……
“炎の王”
に会ったのね。」
リュウトは驚いた。
彼女は何も説明していないはずなのに、
“全て”
知っているようだった。
「……あんたは、
“水の女王”か?」
「ええ。
アクアリアの守護者、セリア。
そして、記憶を司る者でもあるわ。」
「記憶を……?」
女王は静かに微笑み、右手を差し出す。
その掌の上に、水が集まり、ひとつの
“鏡”
を作る。
「見せましょう。
あなたの中に眠る
“記憶の欠片”を
それがあなたの旅の始まりとなる。」
「“記憶の欠片”……」
「さぁ、この鏡に手を。」
リュウトが鏡に触れた瞬間、
視界が反転した。
世界が沈む。
音が遠のき、代わりに水音が満ちていく。
──そこは、千年前のアルディア。
炎が大地を焼き、空は裂け、
五王が戦っていた。
その中心で、
“少年”
が立っている。
白銀の髪。
その胸に、
紅と蒼と金と翠と黒――
五つの光が宿っていた。
「これは……俺、なのか……?」
セリアの声が遠くから届く。
『そう。
あなたは、すべての力を
“繋ぐ者”。
けれど、その力が世界を滅ぼしたの。』
炎の王が叫ぶ。
「やめろ、リュウト!
それを使えば――!」
雷の王が剣を構え、
風の女王が涙を流し、
闇の王が、ただ笑っていた。
そして、光が弾けた。
五つの剣が砕け、世界が崩壊する。
リュウトは息を呑んだ。
胸の奥が熱い。
脳裏に浮かぶ一つの言葉。
“滅びの鍵は、お前だ。”
現実へと戻ったとき、
リュウトは膝をついていた。
冷たい床が、涙を吸い込む。
「俺が……この世界を……
滅ぼしたのか……?」
セリアは静かに首を振る。
その瞳には、
悲しみと優しさが同居していた。
「いいえ。あなたは
“滅びの鍵”
ではあるけれど、同時に
“再生の鍵”でもある。
あなたの中にあるのは、五つの理を繋ぐ
“光”
なの。」
リュウトは顔を上げた。
その瞳に、迷いと決意が同時に宿る。
「俺は……逃げない。
そして戦う。
たとえ、この手が滅びを呼ぶとしても……
もう一度、この世界を救いたい。」
セリアは微笑み、彼の胸に手を当てた。
その手から、淡い水の光が流れ込む。
「その心を忘れないで。
流れは変われど、水は想いを運ぶ。
あなたが進む限り、
道は必ず繋がるわ。」
湖の光が輝き、
リュウトの赤い欠片が
淡い蒼を帯びて脈動する。
二つの色が混ざり合い、
新たな輝きとなった。
神殿を出たリュウトは、振り返った。
アクアリアの塔の頂で、
セリアが祈る姿が見える。
その姿は、滅びを越えて、
なお世界を信じる
“希望”
そのものだった。
「ありがとう、セリア。
俺は行く。
次の場所……
雷の国へ。」
遠く、稲光が走る。
空の裂け目から、雷鳴が轟く。
「来るなら来い!
力なき理想は、雷鳴一つで砕け散る!」
そんな声が、
風に乗って聞こえた気がした。
リュウトは歩き出す。
胸の奥で、
紅と蒼の光が確かに息づいていた。
神殿の奥、
セリアは静かに湖を見つめていた。
その瞳の奥に、消えぬ影が差している。
「……ヴァルゼイン、
あなたも見ているのね。
彼の歩みが、希望となるか、
再び滅びを呼ぶか……。」
湖面に、黒い波紋が広がった。
それはまるで
“闇の王ノワール”
の微笑のようだった。
「リュウト……光も闇も、同じだ。
いずれすべては、静寂へと還る。」
その声は、深淵の底から、
確かに響いていた。
そして、
静寂の中で――
第六の煌剣が、わずかに光を放った。
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