無神経な男と無能な警官たち

「違う!オレはやってない!オレは美香を殺してなんかない!!」

 被疑者が大声で取り乱しているのを、大橋は冷めた目で見ていた。事情聴取をしている先輩刑事の鈴木は被疑者の声などどこ吹く風。

「そういうけどな、お前が被害者を殺してるところを大勢が見てるんだ。それはどう言い訳するつもりだ?」

「だから!オレはペンダントを外そうとしただけだなんだって、それが美香の首を絞めたんだ。オレは美香を助けようとしたんだよ」

 大橋は証言記録を書きとる手を止め、被疑者・木村直史を厳しく責め立てる。

「犯人は自分が殺してないって言うもんだよ。でもな、お前が首を絞めて殺害してるのを通行人が目撃しているんだ。被害者の首には索状痕もあり、爪からはお前のDNAが検出されてる。どこを見てもお前以外犯人はいない。いい加減罪を認めろ」

「ほんとにペンダントがいきなり締まったんだよ、頼みから信じてくれよぉ…」

 犯人の木村直史曰く、プレゼントしたペンダントがいきなり被害者の首を絞めたんだと主張。オレは犯人じゃないと泣き喚く姿はまさに狂人のそれだった。

 鬼気迫る姿は、もしかして本当に犯人ではないのでは?っと思える迫真の演技だが、被害者の大渕美香は浪費癖があり、木村直史はそのことについてかなり辟易していたと調べはついていた。

「そうだよ!ペンダント!ペンダントはどうなったんだ、あれさえあればオレが犯人じゃないってわかってもらえるから!」

「あぁ~、その首輪?「ペンダントですよ、鈴木さん」えっとペンダント?ネックレス?とにかく凶器な、どこを探しても見つからないんだ。」

それならオレは犯人じゃない!と被疑者・木村直史は異議を申し立てたが。

「でもな、目撃者がいるわけだ、しかも大勢。そのみんながみんなお前が殺したと言ってる。んで、被害者の首からお前の皮膚、つーかDNAが検出されてる。これで自分が犯人じゃないなんて都合がよすぎないか?」

「でも、オレは犯人じゃない!」

「大橋じゃないけど、犯人ってみんなそう言うんだよ。まぁ、凶器は見つかってないけど、物的証拠が揃ってるんだ。大人しく罪を認めるんだな」

 木村直史はキャンキャンと騒ぎ立てていたのを止め、静かに肩を落とした。オレじゃないのに、そう呟いたのを2人の刑事の耳に届いてはいたが、いつものことなので軽く聞き流した。



 事情聴取が終わり、被疑者・木村直史の殺人罪が立件された。犯人は自身の犯行を否認し続けたが、大勢の通行人が被害者の首を絞めているところを目撃していたため犯人の主張は却下された。


「そういえば鈴木さん、凶器の紐状のもの、というかペンダント、結局見つかりませんでしたね」

「凶器が見つからない事件なんていつものことだろ」

「ですね」

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