第2話 商人魂 

 少子化の影響で統廃合計画で悩む小学校近くの文房具屋『飛蝗堂バッタどう

 ソコに朝も早くから立ち寄る、およそ文房具に似つかわしくない黒づくめの男、そうガブリエルである。

「おい…オヤジ‼」

「ガブリエルの旦那、今日は何用で?」

「インクのタンク容量がおかしくないか?」

「へっ?足りませんでしたか? おかしいな~1体葬るのに足りない量だとは思いませんけど?」

「一体しか葬れないんだよ‼」

「ですから旦那、言ったじゃないですか、予備のインク入れはいかがですかと」

「万円筆は1本JPY2200 予備タンクJPY5800 聖水500ml JPY8300の設定がオカシイだろ‼」

「そんなことありませんよ旦那‼ ウチの商品は全て、あのヴァチカン印の一級品ですぜ、聖水なんかローマ法王自ら祈祷を捧げた一級品‼ ワタシの伝手なしでは手に入らない逸品ですぜ‼」

「そのヴァチカンから吸血鬼1体JPY50000しか支払われないのに、始末道具の価格設定がオカシイだろと言っているんだ‼」

「そりゃヴァチカンと交渉してくださいよ旦那」

「で?今日は何を? それとも素手で奴らとやりあうんですか? 怪我しますぜ、不死身の旦那でも」

「くっ…」

 思わず口を閉ざすガブリエル、勝ち誇ったようなオヤジの笑みに腹が立つ。

『ガブリエルよ聴きなさい、アナタ不老不死ですけど、痛いもんは痛いのですよ無痛症ではないのですよ、思い出しなさい変な病気を貰って打った注射、骨まで痛いと言ってたじゃないですか、一時の誘惑は危険ですよ生物にはお気を付けなさい』

「生の誘惑の話じゃない‼」

 思わず店先で大声をあげるガブリエル、女神の言葉は彼にしか聴こえない。

 登校中の小学生がビクッと怯えて店の前を足早に過ぎていく。

「やめてください旦那、営業妨害だコリャ…まったく、出禁にしますぜマジで」

「キサマー……」

「なんです?」

「低価格で大量大霊解逝きの武器をよこせ‼…くれ‼」

「くれ?」

「……くれ…なさい」

「昨日入荷したばかりの聖水2ℓタンク付ウォーターガン‼ ズバリ‼ JPY28000 初回購入特典、ヴァチカン印の聖水2ℓ込み‼」

「買った‼」

「毎度‼」


 黒づくめの男は黄色い水鉄砲を抱えて文具屋を出た。

 歩くこと5分、ガブリエルの横にミニパトが停まる。

「ソコの人、ちょっといいですか?」

 ミニパトから目つきの悪い婦警が降りてきた。

「なにか?」

「なに抱えて学校付近をウロついてるの?」

「なにとは?コレか?水鉄砲だが」

「何するつもりで、その無駄にデカい水鉄砲を抱えて小学校の周りをウロついているのか?と聞いているの‼…水入っているな…オマエ、水入り水鉄砲だなソレ‼」

「水?バカか…コレは聖水だ‼ ただの水ではない‼」

「聖水だぁ~? ソレを小学生に?オマエ確保‼現行犯‼」

 ガチャッと手錠を掛けられたガブリエル。

 なんだか解らぬまま交番へ移動することになったのである。

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