第13話 『二つ名モンスター』
「たのもー!」
「おう、遅かったな」
休憩を挟んで再びノスタルジアへイン。
現在ゲーム内では一日ちょっと経ってお昼時。ドルさんの店に顔を出すと笑顔で出迎えてくれた。
「久しぶりのまともな依頼だったもんで、張り切っちまったよ」
ドルさんがこの一日で完成したものを作業机に並べていく。
「早速性能見てみてもいい!?」
「おう、これから苦楽を共にする武具たちだからな。存分に見ていってくれ」
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鉄屑の頑剣
粗雑に作られたゴブリンのナイフ数十本を圧縮し、一本のナイフに仕立てたもの。
わずかに含まれた大剣のかけらが最低限の切れ味を確保し、その耐久性は一級品。
屍鬼の断剣
かの屍喰いやゴブリンの王の素材をふんだんに使用した逸品。
柄の部分には屍喰いの目玉があしらわれており、異様な雰囲気をしている。
【凝視突き】 クールタイム3分
少しの溜めの後、目にも留まらぬ突きを放つ。その突きは並大抵の防具ではあっという間に貫いてしまう。
王の棘冠
骨の冠にナイフを幾つも括り付けたもの。
その刃は敵だけで無く、我が身すら傷つけるだろう。
与ダメージ、被ダメージ共に増加する。
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「『すべてを貫く長剣に、絶対に壊れない短剣。余った素材で火力の底上げ用のアクセサリーを』……なかなか無理難題な要求だったが、鍛冶師として最高の仕事はしたつもりだ」
「ありがとう!」
「いいってことよ。……だが、一つ謝んなきゃならねえことがある」
「……?」
ドルさんは懐から白色に淡く光る球体状の物を取り出す。
「『朽ち逝く戦士達の想い』。これは返そう……俺でもどうにもならない代物だ」
「ドルさんでも無理だったの??」
「あぁ。こいつは…………いや、なんでもない」
ドルさんは『少し野暮用ができた』と奥に引っ込んでしまったので、お礼を言って店を後にした。
その後ジャス君が来るまで暇だったので、時間つぶしも兼ねて配信を開始する。
「どうもー! ジャス君が全然来ないから暇つぶし配信をするよ~」
《頭の上の……なんだ? 王冠?》
《いや長剣禍々しいなw》
《長剣に対して短剣が無骨なデザインなのも逆に良い》
《もう装備完成したのか。おめ》
「今までの素材全ブッパで作ってもらったんだけど、どうやらこの『朽ち逝く戦士達の想い』は使えないらしくて、返されちゃったんだよねぇ」
《ほう……わからんな》
《過去にゲットした奴もいないしな》
ふむふむ。まぁ、手掛かりは自分で見つけるしかないかぁ。
さて、新装備お披露目も終わったし、なにをしようか。
長剣にはめ込まれた目玉を眺めたり、つんつんしたりしながら待っていると、喧騒の中こちらへ向かう足音だけが鮮明に聞こえる。
「遅かったね。それじゃあなにする?」
「おお……おっさんの修行、ちゃんと効果あるんだな」
振り返るとそこにいたのはもちろんジャス君。ヴァナさんの試練の甲斐あってか、ジャス君くらいの間柄なら足音の癖とかでわかるのかも。
「んじゃ、新しい武器の試運転も兼ねてもう一回
「いや、しばらくはいいよ」
「うーん……あっ! それならせっかくの夏休みだし、海水浴でもするか」
「??」
†
「セカンドラはもともと港町として栄えた街だからな。少し歩けば海が見えるんだ」
セカンドラの西に位置する小さな林を抜けると視界が開け、眼前に広大な海が広がる。
しかし、その海は様子がおかしかった。
光をすべて吸い込むかのような漆黒の水が満たされており、波打つ様子が黒いソレを海なのだと認識させる。
「──お、お出ましだな」
「……これが目的だったってこと?」
「レベリングついでってとこだな」
黒い海を観察していると、ドシン……ドシン……と地響きが聞こえると同時に海から魔物の群れが現れる。
体長が腰ほどまである大きなカニや浮遊する小魚の群れ、その後方には海藻が絡みつきサンゴが至る所に張り付いている巨大なゴーレムが足音を響かせる。
「俺が小魚とカニを殲滅するから、ゴーレムは頼んだ!」
「オーケー!」
戦闘態勢に入ると、魔物たちもこちらを『敵』と認識したのか、小魚たちが猛スピードで突っ込みながらも全員で一つの巨大な魔法陣を形成する。
「【アクセント】【フォルテ】!」
以前タイマンを行った時よりもずっと大きい火球を放つジャス君に対し、小魚も魔法陣から水の極太ビームを放つ。
ビームは火球に触れた瞬間に蒸発していくが、火球の勢いも次第に弱くなっていく。
「流石に数の暴力は厳しいか? なら、【ピアノ】!」
広範囲に広がった炎が小魚を覆いつくし、一匹、また一匹と逃げ場なく焼き尽くされる。
しかし、今度はゆっくりな動きながら追いついたカニがその爪を振り下ろす。
「おっと! 【スタッカート】」
反射的に火球を放つが、その全てが甲羅に弾かれてしまう。
『フォルテ』のクールタイム終了まではあと10秒。火力を上げる『アクセント』はクールタイムが1分もかかるのでまだまだ時間がかかる。
「仕方ない。あまり見せたくはないんだが……【
ジャス君の周りに三つの狐火がふわりと浮かび上がる。
カニは一瞬ひるんだが、すぐさま爪を振り下ろす。
「【スタッカート】【狐火】」
ジャス君の周りに浮く『狐火』が一つ消え、放たれた火球はその速度を増し、硬い甲羅を貫く。
何十発もの火球を食らったカニは悲痛な鳴き声を上げながら消えていった。
「事前に聞いていた通りなかなか骨のある敵だったが、この分ならリンでも問題なく倒せるだろう」
近くの岩場に腰かけ、リンの戦いを遠目に眺める。
†
時を同じくして、ジャス君の指示を聞くと同時に奥に控えるゴーレムへ向かって全速力で駆け出す。
小魚とすれ違い、カニもすり抜けようとしたが、進路を阻むように立ち塞がり、こちらへ向けてツメを振り上げてくる。
「【バリア】」
しかしその爪は透明な壁に阻まれ、弾かれてしまう。
その間にカニの頭上を飛び越え、またも走り出す。
あっという間にゴーレムの元にたどり着き、長剣を振るうが岩石からなるその巨体は硬く、体勢を崩すこともできない。
気づけばゴーレムはその右腕を薙ぎ払っている。
「【パリィ】……いやミスったかも!?」
このゴーレムは明らかなパワータイプ。耐久性が自慢の『鉄屑の頑剣』ですらワンちゃんパリィ貫通、武器破壊の危険性も……
──しかし、結論から言えばその心配は必要なかった。
【パリィ】の効果で弾かれる……どころかその岩の拳にひびが入る。
「【凝視突き】!」
長剣の柄にはめ込まれた『死喰い』の目玉がぎょろりとゴーレムを睨みつける。直後に放たれたその突きは岩でできたその胴体を穿ち、風穴を開ける。
「グ……ガガ…………」
だがゴーレムはその動きを止めず、頭上で両手を組み、思い切り振り下ろす。
【パリィ】のクールタイムは終わっているものの、安定択を取りバックステップで回避する。
「ちょっと『バリア』のクールタイム長くしすぎちゃったかな?」
気を取り直して拳に入ったひびに目がけて【強打】を叩き込む。ズドンという鈍い音と共に右腕がはじけ飛び、その巨体が大きく揺らいだ。
──好機。リンが思い切り地面を踏み抜き追撃しようとした瞬間、全身の毛が逆立つ。
死にゲーマーとしての感覚を信じバックステップで距離をとる。
片腕を失い、胴体には風穴があいた巨躯。残された双眸の光は未だ衰えない。
ゴーレムは非常にゆっくりとした隙だらけな動作で、残された左手を静かに地面へ押し当てる。
「…………損傷甚大。侵入者ノ目的不明。侵入者ガ『村』ニ到達スル可能性大。我ラ、海岸線ヲ守リシ者。【海ノ守護者】起動。」
地面に接している左手を中心にピキリと亀裂が入り、あっという間にあたりに広がっていく。
そこから青白い光が勢いよく吹き出し、ゴーレムを包み込んだ。胴体の穴はふさがり、右肩からは新たな腕が構築される。そして、無骨なデザインだった全身には青白い刻印が刻まれていき、古代を生きるゴーレムそのものな外観へ変わっていく。
それに呼応するように、穏やかだった黒い海はすべてを飲み込まんと荒々しい波を立てる。
「ジャス君!!」
「こんなことは今までなかった! ここ一か月で初めての現象だ!!」
《やっぱりリンは何か持ってるんだって!》
《これは信じざるを得ないな》
《こんなん俺たちも行くっきゃないだろ!》
《やめとけ俺らみたいな一般プレイヤーじゃ二秒で消し炭だ!!》
爆速で流れていく阿鼻叫喚のコメント欄を一瞥すると、リンはふふっと笑みをこぼす。
「ノスタルジアオンライン……最ッ高じゃん!!!!」
≪警告:『二つ名モンスター』【海の守護者・シーゴーレム】が発生しました≫
──────────
【狐火(アップテンポ)】 クールタイム5分
発動時、周囲に『狐火』を三つ浮遊させる。
その後、炎魔法発動時に任意で『狐火』を消費することで火力の底上げを行う。
また、『狐火』が存在しているだけで周囲で発動された炎魔法が少し強化される
【アクセント】 クールタイム1分
次の炎魔法の威力を上げる。
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