あ!野生化した鉛筆削りがあらわれた!
ちびまるフォイ
鉛筆削りは最後まで
雨が激しく降る日のことだった。
ガリガリガリ……。
「なんだろう、この音……あっ!」
少女が見つけたのは段ボールの中に捨てられた鉛筆削り。
ガリガリという音は、鉛筆削りの回転音だった。
しばらく鉛筆を食べていないであろう。
鉛筆削りのカス受けはからっぽだった。
段ボールは雨に濡れてふにゃふにゃだし、
毛布には雨がしみこんでいたたまれない状態。
「かわいそう……捨てられたんだね」
少女は寂しげな鉛筆削りを胸に抱いて家に持ち帰った。
家に帰ると母親は猛反対。
「どこで拾ってきたの鉛筆削りなんか!?」
「ちゃんと世話するから!」
「うちにはシャープペンがあるじゃない!」
「鉛筆削りたいの!!」
押し問答はしばらく続いたが、
我が子たっての願いに母親が強く反対できるはずもなく。
一家には新しい文房具の家族が加わった。
真っ先に変わったのは朝の日常だった。
ガリガリガリ!!!!
「うるさーーい!」
朝は鉛筆削りの削る音で叩き起こされる。
お腹が減るとハンドルを自分で回して鳴く。
鉛筆を食べさせるとしばらく落ち着くが、
元気になるとまたガリガリ音を立てる。
閑静な住宅街の静かで優雅な朝は終わりを迎えた。
「ケズリ、お散歩にいくよ」
ガリ!!
鉛筆削りにリードを付けて外へと散歩する。
定期的に外の空気を吸わせないと、
ストレスで刃がツルツルになって削れなくなる。
「〇〇ちゃん、おはよう。お散歩かい?」
「はい。鉛筆削りと公園まで!」
「鉛筆削り飼うのも大変でしょう?
うちも昔は飼っていたけど、トイレのしつけも大変で」
「あ、あはは……」
身につまされる話だった。
鉛筆削りにしっかりトイレをしつけないと、
鉛筆削ったあとのカスを撒き散らしてしまう。
ちゃんと備え付けのゴミ箱に、
へたまった削りカスを捨てると覚えさせる……のだが。
この鉛筆削りはとくに元気な個体。
しつけは至難の業だった。
とくに目くじら立てたのは潔癖症の父。
「おい! またうちの部屋にカスが落ちてたぞ!」
「だってまだしつけできてないんだもん」
「ちゃんと管理できないなら追い出すぞ!」
「なんでそんなひどいことするの!?」
娘との折り合いは悪く、口論の末に仲違いでいつも終わる。
ある日の午後。
少女が学校から急いで帰る。
「ただいま! ケズリは?」
家は妙に静かだった。
いつもなら少女が帰ってくるなり、
ハンドルを勢いよく回して鉛筆削りがやってくる。
「ケズリ……?」
リビングの扉を開けた。
そこには父親と別の鉛筆削りがいた。
「おかえり。お前にプレゼントがある」
「え……?」
「電動鉛筆削りだ。しかも静音で自動カス廃棄付き。
これならトイレのしつけも不要だし、
朝に叩き起こされることもない」
新しい鉛筆削りはヴィーーンと重低音で鳴く。
「こんなのいらない! 私の鉛筆削りは!?」
「捨てたよ」
「え!」
「うるさいし、しつけもできやしない。
あんな旧式を家にいれておく必要なんて無い。
でも寂しいだろうから、新しい鉛筆削りをーー」
「もういい! お父さんのバカ!!」
父親は単に自分が管理しやすい鉛筆削りを与えて、
自分に快適な環境を作りたいだけだった。
少女が鉛筆削りに感じていた愛着すらわかってない。
少女は外へ出ると必死で鉛筆削りを探した。
あのやかましいガリガリ音に聞き耳をたてる。
「ケズリーー! ケズリーー!!」
ほうぼう探してあたりはすっかり日が沈んだ頃。
いつも散歩で通う公園に鉛筆削りはいた。
「ケズリ!!」
ガリッ。
少女がかけよろうとしたときだった。
鉛筆削りの奥に、さらに大きな鉛筆削りがいることに気づく。
ガリガリガリ。
大きな鉛筆削りはハンドルを回してなにか訴えている。
その漆黒の鉛筆差込口の穴を見て少女も察した。
「ケズリ……。お前は自然に帰るんだね」
ガリガリ……。
家から外に解放された鉛筆削りは、
巨大な鉛筆削りや他の鉛筆削りと新しい家族を作っていた。
もう使われない人間社会で暮らすより、
自然に帰って他の鉛筆削りたちの中で暮らすほうが幸せだろう。
少女は寂しさを飲み込んで自分を納得させた。
「さようなら! ケズリ、元気でね!!」
ガリガリガリ!!
鉛筆削りは最後にハンドルを1回転。
お別れの鳴き声を夜の公園に響かせた。
やがて他の鉛筆削りとともに自然へと帰っていった……。
おしまい。
その後、野生化した鉛筆削りによる人里への被害がニュースとなる。
「見てください! 電柱のさきっぽが削られています!」
「森林が鉛筆削りにより伐採され、山は削りカスだらけです!!」
さらに野生のホッチキスと交配種も誕生し、現在は危険外来生物となっている。
そのことを少女はもちろん家族は誰も興味なかった。
NO MORE ペット遺棄。
あ!野生化した鉛筆削りがあらわれた! ちびまるフォイ @firestorage
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