読み終えてしばらく、じんわり温まり続けるタイプの物語でした。舞台は決して華やかでも清潔でもない“本物の中世”なのに、そこで交わされる言葉やまなざしが、不思議なくらい現代の私たちの心に直球で響いてきます。まるで、泥まみれの巡礼路の中にだけ咲く、小さな光の粒をひとつずつ拾い上げていくような読書体験でした。
主人公のアキラは皮肉屋で、合理主義で、最初から世界にツッコミばかりしているのに、歩けば歩くほどその視線が“世界の痛み”に触れていく。その過程が本当に丁寧で、読んでいる側までいつの間にか同じ景色を見ているような気持ちになります。そして、彼と並んで旅をするアニエスの存在がまた魅力的で、彼女の無垢さと強さが、アキラの心のどこか奥の冷たい部分を静かに溶かしていくんです。
この物語の魅力は、「愛」と「絆」という一見きれいな言葉を、あえて“汚れた世界”の中で描いているところ。嘘やご都合主義ではなく、汗と涙と泥の匂いがする“本物の愛”が、少しずつ形になっていく。その過程がとにかく刺さります。
きれいごとに疲れてしまった人、異世界ファンタジーに新しい視点を求めている人、そして「物語に救われたい」と思ったことがある人に、ぜひ読んでほしい一作です。
異世界転生モノを嫌う高校生作家・晃が飛ばされたのは、彼が最も嫌悪する14世紀フランス。しかも魔法もレベルアップもない、糞尿と疫病が蔓延する"本物の中世"だった――
この作品の魅力は非合理な世界で知る真実です。「病は家族の罪」とされる時代で、現代知識は全く役に立たず、皮肉という防御壁も通用しない。そんな極限状態で晃が出会う薬草を集める孤独な少女アニエスとの関係性が秀逸です。
最初は衝突ばかりの二人が、死に瀕した老巡礼者から「妻への愛のメッセージ」を託されたことで運命共同体に。晃が最も嫌う「クサいヒューマンドラマ」こそが、生き抜く力になるという皮肉な展開が胸を打ちます。
現代の親子関係の問題と中世の過酷な旅が交差する構成も巧み。「愛と絆」という重すぎる荷物を背負った二人の巡礼が、どんな結末を迎えるのか――