ディシジョンを胸に 2版
颶風 爽籟
喜べ、出逢いに出逢いだ
第1話 事件でっせアネキ
【序章】
「 ……やっとだ。やっと呼び出せた……! 」
カミシロ・トウジは震える手で機械を操作しながら、狂喜の声を漏らした。
その視線の先──仰々しい機械に繋がれた女が、静かに横たわっている。
アサイ・トキスミ。
数千年。
彼が狂ったように追い求めてきた存在そのものだった。
呼び出された直後のせいか、彼女はまだ指一本動かさない。
トウジは出力を上げ、星の核から吸い上げたエネルギーを彼女に注ぎ込む。
画面に映るトウジの瞳は血走り、
涙と唾液が混じってデスクに落ちた。
「 数千年……待ち続けた甲斐があった…… 」
その背中を、椅子に座ったままもう一人の女が黙って見つめている。
カミシロ・コノカ。
足を組み、腕を組み、感情を押し殺した目で。
「いつになったら起きるの? その女」
ぶっきらぼうな問いかけに、トウジは視線を画面から離さず答える。
「あと少しだ。……ここまで来たんだ。もう少しで」
独り言のような、誰に向けた言葉でもない声。
コノカは小さく息を吐いた。
「……そう。永く待ったものね。もうすぐ、ね」
彼女の瞳には決意めいた光があるのに、どこか濁っていた。
ふたりの目的は違う。けれど求めている“ひとり”は同じだ。
そのたったひとりのために、何百という命が犠牲になった。
それでも会話は続かず、部屋に重たい沈黙が落ちる。
長年の共闘にも関わらず、ふたりの間にあったのは情ではなく契約だけだった。
そのとき──。
地面が大きく揺れ、棚から書類が落ち、機械が倒れる。
トウジは反射的にトキスミの上に覆いかぶさり庇った。
「 何事よ! 」
コノカが怒鳴ると、遅れて衛兵が飛び込んできた。
「 敵襲です! 宇宙連邦軍が反乱を起こし、こちらの星へ接近中! 」
コノカは鋭く舌打ちし、即座に指示を飛ばす。
「 第一艦隊と第三は東と西に配置。第二は殿! 」
トウジはトキスミとコノカを交互に見て、迷いを隠せない。
その揺れる視線に、コノカの苛立ちが爆ぜた。
「 迷ってる暇はない! 連邦が裏切った以上、この星は持たないわ! 」
( わかっている。わかっているが──。 )
トウジは薄く唇を噛み、そして一度だけ目を閉じた。
「 ……彼女は地球へ送る 」
コノカの表情が歪む。
「 本気? この期に及んで手放すつもり? 」
「 違う。後で必ず迎えに行く。ただ──今、奴らに彼女を見せるわけにはいかない 」
その瞬間、コノカは言葉を失う。
トウジがトキスミを守るためなら何だってすることを、彼女は知っていた。
「 地球には俺たちの拠点がある。身分証も用意してある 」
どれだけ前から準備していたのか。
コノカはその執念に薄く驚きながらも、今は否定しなかった。
「 ……急ぎましょう 」
トウジはトキスミを抱きかかえ、小型宇宙船へ走り出す。
コノカも一度だけ彼の背中を見つめ、すぐに駆け出した。
星が崩れていく音が、遠くで響いていた。
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