こんなに晴れた素敵な日には
輪島ライ
1 先輩の首を絞めた日
大阪市内の外れにあるラブホテルで。
私、
「っあ!! あ、あ、あああぁ……ああぁ……」
「あんたなんかに……あんたなんかに、私の……」
私が右手に強く力を込めると先輩は苦痛と快感に表情を歪めて、脂肪を蓄えて丸々とした頬に不規則なえくぼが浮かぶ。
彼のズボンを通じて嫌でも伝わってくる熱感に、私は形容できない気味の悪さを感じながら少しだけ両手の力を緩めた。
「あ、あ……はぁはぁ……日比谷先生っ……」
「もういいでしょう。お金は結構ですからこんなことはもうやめましょう。今日あったことは全部忘れて、それで……」
「忘れないよ……」
「っ……!!」
私が両手から力を抜いた瞬間に先輩は肥えた右手で私の白く細い左腕をつかみ、原初的恐怖に襲われた私は反射的に右手で先輩を殴りつけた。
「あはあっ!!」
「何するんですかこの変態! 死ねっ! あんたなんか今日ここで死ねっ!!」
「くっ、くうっ、ああああああああああああああ!!」
激昂した私はこれまでで最も強い力で先輩の首を絞めて、その瞬間に先輩は下半身を痙攣させた。
「な、何よこれ……こんなのって……」
「最高だった……日比谷先生、もっと、もっと僕を……」
「いやっ!! もう無理です、こんなのとても付き合ってられない!! 私帰りますからね!!」
「ま、待って……」
私は涙目になりながら先輩の肥満したお腹の上から立ち上がり、そのままラブホテルの部屋を出ようとする。
痙攣の余韻で動けなかったはずの先輩は私が立ち上がった瞬間に素早く私の右の足首を右手でつかみ、私は思わず転びそうになってしまう。
「日比谷先生、待って……」
「何ですか!? 私もう限界なんです、何であんたとこんな所でこんなことしなきゃいけないんですか!?」
「隠しカメラがある」
「っ……死ねっ!!」
私は先輩の言葉に再び恐怖すると右脚を振り上げて先輩の手を振り払い、そのまま彼の肥満した腰を何度も右足で蹴りつけた。
「消せ、消せっ!! 人前で見せびらかしたりしたら本当に殺しますから。今すぐ消してください!!」
「消さない!!」
「何でですか!?」
先輩は私に太った身体を蹴りつけられる度にあえぎ声を漏らし、私は今の状況の気持ち悪さに両目から涙を流しながら叫んだ。
「動画を消したら、日比谷先生はもう会ってくれない。動画さえ消さなければ、僕は何回でも日比谷先生にこうして貰える」
「消したってそれぐらいしてあげますよ!! お願いだから、どうか……」
「消さない!! 5万円!!」
先輩は子供が駄々をこねるようにして叫び返すと、ポケットの定期入れから雑に折り畳んだ紙幣を取り出した。
身体中を蹴られた痛みに唸りつつ、先輩はホテルの床をうつ伏せで這って私に5万円を差し出した。
「僕とこうやってデートしてくれたら、その度に君に5万円をあげる。悪い話じゃないはずだ」
「いっ、要りません、そんなお金……」
「だったらどうして会ったんだ、正体が誰かも分からないような男と!!」
「……」
私を床から見上げながらそう言った先輩の目には、確かな光が宿っていた。
「受け取れ。僕とここでこうした以上、君にはこれを受け取る義務がある」
「……っ!!」
私は先輩が差し出した5万円を奪い取るように右手でつかみ取り、そのままバッグの中の財布にしまい込んだ。
そして先輩を置き去りにしたまま私はラブホテルの部屋を出て、泣きながら阪急京都本線の大阪梅田駅へと走った。
先輩の名前は
そして、私と先輩は同じ職場の同じ仕事で働く仲間だった。
これが、私がかつて夢見た「お医者さん」の生活だったのだろうか。
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