第5話 売られたケンカは買う その5

 シーンと静まり返った空気に耐えられず、照れながら頭を掻いた…女の子。


「私はあの兄を次の当主にさせたくないのですよ。」

『…誰?』

 真剣な眼差しで菜緒を見るが、菜緒はよく分かっていないのだ。


「兄も父同様、自分以外は道具扱いのク…変わった考えの持ち主なんです。」

 汚い言葉が出てきそうに…半分出たが、飲み込んでマイルドに変換した。

 言葉だけは、お嬢様っぽく振る舞おうと努力している。


「このまま何もせずにいると…私達、非才の者は使い捨ての駒として、消費させられてしまいます。」

 平均よりも高い能力を持っていても、基準に届かない者達は無能の烙印を押され、使い潰される…そんな事を平気でする、頭のおかしい者達に支配されている家が竜宮院という家である。


 …牡丹も無能と呼ばれていた。単騎で国を滅ぼせるほどの実力を持っていても、霊力を持っていないというだけで無能扱い。家を捨てて、出て行きたくもなる。



「その前にまず、式神【青龍】の回収、または貸与。次に、家の中の膿の排除。そうして、家に私達の居場所を作る。」


 式神【青龍】を従えられれば、十二神将の地位と武力を得られ、表立って敵対する者が現れないように出来、膿…頭のおかしい者達の権力を奪い、不当な扱いを受ける者を減らし、家を捨てて出て行けない者達用の安全地帯を用意して、家の弱体化を最低限にする。


「…話、終わった?」

「ええ。…ちゃんと聞いていましたか?」

 訝しげな顔をして菜緒の顔を覗く。菜緒はいつの間にか鈴に、後ろから抱きつかれていた。


「ん、婿養子と兄はクズ?で、自分達が危なくなるから、私の力を借りたい?青龍欲しい。」

 ざっくりと聞いた事を菜緒なりに纏めた。一応話は聞いていた…背中に当たる胸の感触に邪魔されながら。


「大体そんな感じですが…人の親を、婿養子呼びはやめて下さいね?事実ですけど…。」

 性格クズでも一応は父親なので、変な呼び方はされたく無い。


「…名前、覚えてない。」

 ばつが悪そうに…小さい声でカミングアウトした。菜緒は、興味が無い人の名前を覚えるのが苦手だ。


「竜宮院 尊、ですよ。」

 呆れたように、菜緒に名前を教える。

 …多分、2、3日後には忘れているだろう。


「…それで【青龍】の件は如何ですか?仮の主にでもなれれば一番良いんですが、お借りするだけでも充分なんですが」


「ん、【青龍】だけど…」

『鈴ちゃんがいいなら、別に【青龍】渡しても良いけど…大丈夫かな。』


「鈴ちゃん、【青龍】渡して良い?」







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