第9話 腕試し

 周りに生徒が多くいる状況に変わったが、ギチギチに詰められているのではなく、一定間隔を保たれている。


 しかし、この間隔には違和感がある。


 それは、アリアさんも気がついたようで、こちらに声をかけてきた。


「ナガトさん、この間隔、防御魔法の効果範囲と同じです。それも基本4属性のですね」


「って事は?」


「多分ですが...試されています」


 次の瞬間だった。


 何も無く、気が抜けていた新入生を目掛けて、攻撃が飛んできた。


 しかも、それは多種多様...と思われたが、それぞれの苦手属性の魔法だった。


 こちらに飛んできたのは、炎魔法の1つファイアボール。


 アリアさんの氷魔法を封じて、基本4属性の魔法で、防御魔法を展開させる気だろう。


「私がやります。アクアベール」


 途端、俺とアリアさんを包むように水の薄い膜が展開される。


 しかし、肌感覚で分かる。これじゃあ、止まらない。


(俺もアクアベールを展開しよう)


 咄嗟にアクアベールを重ねがけし、火球の様子を伺うが、なんとアクアベールを突破してきていた。


 アリアさんが相殺するべく、魔法を出そうとするが、詠唱が間に合っていない。


(ゼロエア)


 しかし、火球が俺達にあたる寸前で、その火球は消えていった。


 ゼロエア、そのままの意味で、空気を無くす。


 火は酸素があるから、燃えれるけど、真空空間では燃えられない。


「どうして...消えたんですか」


「さぁ?」


「どちらにせよ、幸運でした」


 次の瞬間、風が吹き、魔法の衝突によって起きた煙を消し飛ばしていた。


 今回は人に危害がないような完璧なコントロール。


 一体誰の仕業なのだろうか。


「公爵家のお2人は流石の腕前ですね。侯爵家の方は何とか...残りは数名ですか」


 俺たちの目線の先に現れたのは、一人のおばあさま、短い杖も持ってるし、魔法使いだろう。


 よくある魔法使いの帽子被ってるし...あれはどの世界も共通なんだな。


「さて、御入学おめでとうございます。私からは特に言う事はありませんが、頑張って卒業してくださいね?家名の為にも」


 そう言って、そのおばあさまは、一瞬にして消えていた。


 転移魔法だろうか?


 もしかして、あれは王国が誇る魔法使いと言うやつだろうか。


「ナガトさん、気を引き締めましょう。多分ですが、クラス分けが決まりましたよ」


「クラス分け?」


「はい、学生証を受け取りに行くのですが、そこにはクラスが書かれます。1年毎に変動しますが、最高がAクラス、最低はDクラスです」


「なるほど」


 そして、少しづつ生徒が退出していく中、俺とアリアさんもそっとこの場を離れた。


 チラッと映った視線の先では、怪我をしている人もいた。


 あの攻撃を防げなかった人達だろう。大半が、半分から左側の人達で、爵位が伯爵以下の人達だった。


「伯爵家ですら、ほとんど壊滅...そんな攻撃魔法をこの数乱射...規格外ですね」


「多分...トリガー式の魔法...あの椅子に仕掛けられていて、全員が座ったら魔法が放たれる...というところかな」


「それが現実的ですが、どちらにせよ、あの量の魔法が放てるのは、驚異でしかありませんよ」


 話しながら、学生証を受け取れる場所まで向かっていると背中の方から声がかかった。


 見なくてもわかる膨大な魔力量。


 あの場所に居たとしたら、公爵家...。


「お待ちなさい。リベルタス家のご令嬢」


「わ...私に何か御用でしょうか...シンシア様」


「いえ、用があるのはそこの付き人さんです」


「ナガトさんに...」


 金髪縦ロールのお嬢様は、俺に何か用があるようなのだが、一体何の用だろうか。


 もちろん、初対面だし、この人が公爵家のご令嬢だということくらいしか知らない。


「あの時、防御魔法は破られたのに、貴方には当たらなかった...何をしたんですか?」


「俺は...何も」


「そうですか、言いたくないのであれば、大丈夫です。来年、お待ちしておりますよ。Aクラスで」


 そう言って、付き人のメイドさん?と一緒に去っていった。


 あの人の付き人さんはとても礼儀正しく、俺とアリアさんに大きく腰を折って礼をしていった。


 その背中が見えなくなったと同時に、アリアさんがホッと息を吐いた。


 公爵家と伯爵家、相手にするとなれば、どちらが負けるかは明白なのだろう。


「シンシア様が何故こちらに...それにナガトさんに」


「これって目をつけられたってことかな?」


「でしょうね。私達がBクラスで、来年にAクラスに上がると思われているらしいです」


「確信してたから、クラス確定かな?」


「公爵家の言葉ですからね。多分確定でしょう」


 そして、学生証を受け取った俺達は、言われた通りのBクラスだった。


 それにしても、これ、自己紹介カードみたいだ。


 最初に書かされた得意魔法や苦手魔法まで書かれている。


 これをなくした時の代償はかなり大きそうだ。


「Bクラス...公爵家は居ないでしょうが、侯爵家は居るでしょうね」


「まぁ、1番上のクラスじゃないからマシ...って言えないのか。成績の事もあるし...」


「成績の出し方、予想外でした。クラス内で成績を取り合う...かなりマズイです」


 そう、成績の出し方は5段階評価の簡単なものだが、最高評価は3ペア、つまり6人しか貰えない。


 良い成績をとっても、それより上がいれば、下の評価になる。


 戦うの嫌いなんだよなぁ...と思いつつも、頑張るしかないことは理解していた。


(さよなら、俺のスローライフ)

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