第7話 古代文明の遺産

外宇宙に浮かぶ巨大構造物――古代文明の残した「沈黙の遺跡」の内部。

無数の廃棄された機械群と、長い年月を経た金属の壁が、不気味に反射する淡い光に照らされていた。


「……まるで、生きているみたい」

リィナは慎重に足を進めながらつぶやく。

壁のひび割れからは微弱なエネルギーが漏れ、ほのかに光っている。


アリアは解析装置を手に取り、光の流れと壁の構造を読み取る。

「ここはただの遺跡じゃない。人工的に、そして生物的に設計されている。

古代文明は、建造物そのものに意志を持たせたのかもしれない」


艇の外から漂ってきた微弱な信号を追うと、奥の広間に巨大な円形の装置が姿を現した。

中心には、太陽のように光を放つ球体があり、周囲の壁面には無数の文字と記号が刻まれている。


「これ……古代文字? でも意味が分からない」

リィナは装置を解析しようと指を触れるが、触れた瞬間、光球が反応して微細な振動を放った。


「気をつけて!」

アリアは腕を伸ばし、リィナを引き寄せる。

光球から放たれる振動は、空間の密度を歪め、足元の床が不安定になった。


しかしアリアの体内の「適応式戦術脳」が瞬時に解析する。

(床の圧力点、振動の軌道、光球との距離……これで最適経路が分かる)


アリアはリィナに手を握らせ、指示に従って一歩一歩進む。

振動を避けながら、光球の中心部へと近づいていく。


「……見て」

リィナが小型ホログラムを起動させると、光球内部の構造が3Dで浮かび上がった。

中心には小さな結晶体が埋め込まれており、どうやらそれが古代文明の「知識の核(コア)」であるらしい。


「これを持ち帰れば、アルカディアの人工太陽の謎も解ける……」

アリアの胸が高鳴る。

「でも、どうやって取り出す?」


その瞬間、光球の表面が波打ち、壁面に無数の光の触手が伸び始めた。

触れたものは瞬時に空間の中に吸い込まれる。

まるで遺跡自体が、自分たちの侵入者を排除しようとしているかのようだった。


「リィナ! データ装置を使って!」

アリアは指示を出す。


リィナは解析装置を光球に接続すると、装置が光のパターンを解析し、触手の動きを予測して反応を逆に制御した。

触手は徐々に収まり、光球の回転も安定した。


「……成功!」

二人は息を整え、光球の中心部に触れる。


掌に触れた瞬間、膨大な情報が意識に流れ込む。

宇宙の座標、失われた文明の技術、未知のエネルギー源――。

アリアの脳が閃光のように知識を吸収する。


「これは……人類の未来を変えられる力……!」

アリアは握った結晶体を慎重に取り出し、艇へ戻る。


外宇宙に浮かぶ沈黙の遺跡の奥、二人の行動を見守る影があった。

光の残滓の中で、何者かが静かに微笑む。


――これから待つのは、遺跡の試練だけではない。

人類の命運を巡る、宇宙規模の戦いの序章だった。

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