第5話 最終軌道(オービタル・ラスト)

光の渦に包まれた〈アルカディア〉外縁の空間で、アリアとリィナの機動艇は静止した。

眼前には、人類以前の古代文明が築いた巨大構造物――軌道都市の廃墟が漂っていた。

その中心には、人工太陽を模した光源が、ゆっくりと回転しながら放射エネルギーを溢れさせている。


「……これが、全ての元凶……」

アリアはリィナの手を握り、波打つ光の中心を見つめる。

「祖母が追っていた、“沈黙した星”の秘密……そして継承者計画の核心」


リィナも頷く。

「ここには、計画の全データと、人工太陽の異常の原因が隠されています。

でも……それを守るために、敵が待ち構えています」


視界の奥、廃墟の影から黒い装甲の人影が現れた。

かつての保安局上層部の幹部、そして人工知能を搭載した追跡ドローンの群れが、最終防衛ラインを形成している。


「アリア・レンブラント……継承者の覚醒はここで終わる」

上層部のリーダーが低く告げた。



アリアの体内で、適応式戦術脳(アダプティブ・コア)が完全に覚醒した。

脳内に光の回路が走り、瞬時に廃墟の構造、敵の位置、戦術の最適解を解析する。


(…来い。全部、私が止めてみせる)


機動艇を軌道都市の残骸の間に滑らせながら、アリアは反応速度を極限まで高める。

手元の操作はほとんど無意識で、敵の攻撃や罠を避け、逆に反撃に転じる。


「リィナ、光源を解析して!」

「了解! でも……これを使えば、外縁軌道が不安定になるかも!」


光源のエネルギーを解析すると、人工太陽の暴走の原因が明確になる。

それは、古代文明の超高度AIが生み出した「人類試験装置」。

人工太陽は人類の適応能力を計る装置であり、継承者はその“鍵”だったのだ。


「……全部、つながった」

アリアは静かに呟いた。



敵の攻撃が集中する。

パルス銃の光線が艇を包むが、アリアの解析能力は一瞬で軌道修正を行い、光線を避ける。

リィナの解析装置が光源に干渉すると、人工太陽の暴走が一時的に止まった。


「よし、チャンス!」

アリアは艇を加速させ、光源の中心部へ突入する。


目の前の光が白熱し、周囲の残骸が渦のように流れ、時間と空間の感覚が歪む。

アリアは手を伸ばし、光源内部に埋め込まれた制御装置に触れた。


瞬間、脳裏に祖母の声が響く。


「アリア……あなたが最後の継承者。すべてを止められるのはあなただけ」


アリアは全身に力を集中させ、解析能力と意志を同期させる。

光源の回転が徐々に収まり、周囲の廃墟の軌道も安定し始める。


――軌道都市の崩壊は止まった。



残骸の中で、追跡ドローンや敵幹部たちは無力化され、黒光りの装甲が宙に漂う。

アリアはリィナと艇を安全軌道に戻す。


「……終わったの?」

リィナが不安そうに尋ねる。


「ええ……少なくとも、今は」

アリアは遠くに漂う人工太陽を見つめ、微かに微笑む。

「でも、私たちが見つけた秘密は、人類を次の段階に進める力になる……」


そして、外宇宙の静けさの中、二人は新たな旅路を感じた。

軌道都市の残骸に包まれた沈黙の星は、ついにその声を人類に伝えたのだ。

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